自動車には様々な冷却システムが使われている
自動車には様々な冷却システムが採用されています。
自動車で最もメジャーな冷却システムはエンジン冷却
まず1番最初に思いつくのは、エンジンの冷却ではないでしょうか?
エンジンのオーバーヒートを防ぐために、ラジエーターで冷却した冷却水をエンジンのウォータージャケットに通してエンジンを冷却しています。これは水冷方式と呼びます。
一方、バイクのエンジンには空冷方式のものをあります。エンジンに外気の空気を当てることによって冷却する方式ですね。
電気自動車(EV)ではバッテリの冷却が重要になっている
電気自動車になっても自動車の中から冷却システムがなくなるわけではありません。むしろ重要度が増してきています。
電気自動車に搭載されるバッテリは熱に弱く、適切に熱マネジメントしないとバッテリが劣化して航続距離が低下してしまいます。
バッテリの冷却システムは、各自動車メーカーがいろいろな方式を採用しています。
日産のリーフは空冷方式を採用して機能とコストのバランスを取る
日産のリーフは空冷でバッテリを冷却するシステムを採用しています。
これは機能とコストのバランスを上手く取るためでしょう。しかし、空冷方式は冷却能力が低いため、リーフのバッテリは劣化が進みやすいという問題があります。
また、軽自動車EVの「サクラ」は冷媒を利用した冷却をしています。これは空調の原理である冷凍サイクルを利用しています。
テスラは水冷方式を採用してバッテリの劣化抑制を優先
一方、テスラはバッテリ冷却に水冷方式を採用しています。
冷却水を円筒形上のバッテリセルの隙間に流すことによって、高い冷却性能を得ています。水冷方式は空冷方式よりコストは高いですが、冷却性能が高くなります。
したがって、テスラはなるべくバッテリを劣化させたくないという思いが強いのでしょう。
空冷の仕組み
ここからは、空冷・水冷・油冷の3つの冷却方式の仕組みについて解説します。
空冷はファンを使って冷却
自動車のエンジン冷却において、一部の車種では空冷エンジンが採用されています。空冷エンジンは、エンジンの熱を直接空気に放出する方法で冷却を行います。空冷エンジンの特徴的な構造として、シリンダー周囲に多数の冷却フィンが設けられており、これによって放熱面積が広げられます。
空冷エンジンは、その構造上、ラジエーターや冷却水を必要とせず、一部のモーターサイクルや旧式の自動車(たとえば旧型のVWビートルやポルシェ911)で見られます。これらの車種では、エンジンがコンパクトで、冷却系統の故障リスクを減らすことが可能です。
ただし、空冷エンジンは冷却効率が水冷エンジンに比べて低いため、大排気量や高出力のエンジンには向いていません。また、環境温度による影響を大きく受けるため、極端な高温や低温環境下では冷却効果が不足することがあります。
なお、自動車以外では、一部の小型機器や工具、特にチェーンソーや芝刈り機などのガソリンエンジン機器では空冷エンジンが一般的に使用されています。これらの機器は小型であり、かつ比較的短時間の使用に限られるため、空冷エンジンの利点が活かされます。
空冷方式とは、空気を使って物体を冷却する方式のことです。空冷はさらに自然空冷と強制空冷の2つに分類されます。
自然空冷方式
自然空冷は自動車が走ることによって発生する車速風を物体に当てることによって冷却する方式です。そのため、自動車が停車中は車速風が0になってしまうので冷却性能が著しく落ちてしまいます。
強制空冷方式
強制空冷は空冷ファンによって強制的に風を起こし、それによって物体を冷却する方式です。ファンを用いているので、停車中も風速を落とすことなく安定した冷却能力を発生させ続けることができます。
水冷の仕組み
水冷のシステム構成
自動車の冷却システムは、エンジンが適切な温度で動作できるようにする重要な役割を果たしています。エンジンが過熱すると、部品が劣化したり、最悪の場合エンジンが故障することがあります。以下、主に水冷式の冷却システムについて説明します。
- 冷却液:通常、冷却液は水とエチレングリコール(または類似の物質)の混合物で、エンジン全体を循環します。この液体はエンジンの熱を吸収し、それをエンジン外部に運び出す役割を果たします。
- ウォーターポンプ:ウォーターポンプは、冷却液をエンジンブロックとヘッドを通じて循環させる役割を果たします。これにより、冷却液がエンジンの各部を均等に冷却することができます。
- サーモスタット:サーモスタットは、エンジンが適切な動作温度に達するまで冷却液の流れを制限します。エンジンが十分に暖まった後で、サーモスタットは開き、冷却液をラジエーターに向かって流れるようになります。
- ラジエーター:ラジエーターは、冷却液が通る一連の管で、風(車両の前方からの風や冷却ファンによって作られる風)がこれらの管を通って流れるときに冷却液を冷却します。これにより、冷却液はエンジンからの熱を排出し、エンジンを冷やすのに十分な低温に保つことができます。
- 冷却ファン:エンジンが高温になりすぎると、冷却ファンが作動してラジエーターを通過する空気の流れを強化します。これは、車が停止しているときや、ゆっくりとした速度で運転しているときなど、外部からの風が不十分なときに特に重要です。
以上が主な構成要素で、エンジンを冷却するためにこれら全ての部品が協力して動作します。自動車の冷却システムはとても重要なため、定期的なメンテナンスと点検が必要となります。
水冷は冷却水をウォーターポンプで循環させて冷却
冷却回路を構成して冷却水を循環
水冷は冷却水(クーラント液)を使って物体を冷却する方式です。冷却水の成分は主にエチレングリコールと水の混合物でできています。
水冷で冷却するためには、冷却回路と呼ばれる閉回路を構成する必要があります。ウォーターポンプを使って、冷却回路内に冷却水を循環させます。
その冷却水を冷却対象に流すことによって、熱を冷却水に吸熱させる仕組みです。このままでは、冷却水の温度が上がり続けて、やがて冷却できなくなってしまいます。
ラジエーターで外気に放熱させて冷却水の温度を下げる
そこで、重要な役割を果たしているのが「ラジエーター」です。
ラジエーターは冷却水の熱を外気に捨てるための部品です。ラジエーターで熱を外気に捨てるため、冷却水温度はラジエーター入口より出口の方が低くなります。
そして、温度の下がった冷却水を再びエンジンやバッテリなどの冷却対象に戻してあげます。
暖まった冷却水は暖房にも利用される
エンジンの熱を吸収して暖かかくなった冷却水は暖房に再利用されます。そうすることによって、エンジンの廃熱を有効活用することができます。
一方、電気自動車の場合は、エンジンがないため冷却水で暖房することができません、そこで、現在はヒートポンプサイクル暖房が注目されています。
油冷の仕組み
油冷は冷却水をオイルに置き換わるだけで基本構造は水冷と共通
「油冷」は、一般的にはエンジンの冷却に使用されるシステムを指します。自動車のエンジンは燃料を燃焼させて動力を得ますが、その過程で大量の熱が発生します。この熱をうまく処理しないと、エンジンは過熱し、性能が低下したり、最悪の場合、エンジンが壊れる可能性があります。
油冷システムでは、特殊なエンジンオイルを使ってエンジン内の熱を吸収し、それをエンジン外部に運びます。これは、エンジンの各部分にオイルを通すことで行われます。オイルはエンジン内部を循環し、熱を吸収して外部のラジエーターに運びます。ラジエーターでは、熱がオイルから空気に放出され、オイルは再びエンジン内部に戻ります。これにより、エンジンは冷却され、適切な動作温度が維持されます。
一部の高性能車やモータースポーツ車両では、この油冷システムがより積極的に使用されます。これは、これらの車両が発生する熱量が大きいため、より効率的な冷却が必要となるからです。また、電動車(EV)のバッテリーパックの冷却にも油冷システムが使用されることがあります。
油冷は回路内の媒体が冷却水からオイルに置き換わるだけで、基本的には水冷とシステムは似ています。
ウォーターポンプがオイルポンプに、ラジエーターがオイルクーラーにそれぞれ置き換わりますが、機能は共通しています。
適用先としては、自動車よりも排気量の小さいバイクのエンジンの冷却によく用いられています。
自動車における油冷の適用先
「油冷」とは、熱を適切に制御するために機械や装置にオイルを使用する冷却方法です。自動車の中では、以下のような部分で主に使用されています。
- エンジン: エンジンは自動車の動力源で、燃料の燃焼により大量の熱を発生します。そのため、エンジンを適切な温度に保つための冷却システムが必要です。一部のエンジン(特に高出力のエンジン)では、エンジンオイルを利用した油冷システムが用いられます。オイルクーラーと呼ばれる装置を通過したエンジンオイルがエンジン内部を循環し、熱を吸収してエンジンから遠ざけます。その後、オイルはオイルクーラーで冷却され、再度エンジン内に戻されます。
- トランスミッション: トランスミッションはエンジンから発生するパワーを適切に車輪に伝達する役割を果たしています。多くの自動車ではトランスミッションフルード(またはギアオイル)という特殊なオイルを用いて潤滑と冷却を行います。特に自動車のオートマチックトランスミッションでは、フルードがヒートエクスチェンジャー(一種のラジエーター)を経由して冷却されます。
- 電気モーターとバッテリー: 電気自動車では、エンジンやトランスミッションとは異なる部分でも油冷が利用されます。電気モーターやバッテリーは稼働中に熱を発生し、これらの熱がパフォーマンスを低下させたり、部品の寿命を短くする可能性があります。そのため、これらの部分を冷却するために油冷システムが利用されることがあります。
これらのシステムは自動車が適切に動作するために必要であり、高い効率で熱を排除し、部品の過熱を防ぎます。また、油は潤滑剤としても機能し、フリクション(摩擦)による熱の発生を減らし、部品の寿命を延ばします。しかし、油冷システムはメンテナンスが必要であり、定期的にオイルの交換やチェックを行う必要があります。
空冷/油冷/水冷の3つの冷却方式のメリット・デメリット
まずは上記の3つの冷却方式の概要を説明します。
空冷方式のメリット・デメリット
メリットは①コストを抑えられる、②レイアウトの自由度が高い
空冷方式のメリットは、①コストが安いこと、②レイアウトの自由度が高いことです。
自然空冷なら特別な部品は不要ですし、強制空冷でも空冷ファンを取り付けるだけで実現可能です。
デメリットは最も冷却性能が低い
一方、デメリットは冷却性能が低いことです。
詳細は以下で解説するのでここでは省略しますが、大きな発熱体の冷却には向いていません。したがって、大排気量のエンジンや電気自動車のバッテリなどのような部品を空冷だけで冷却することは非常に困難です。
水冷方式のメリット・デメリット
メリットは最も冷却性能が高い
水冷のメリットは3つの冷却方式の中で最も冷却性能が高いことです。
したがって、発熱量の大きな物体の冷却には水冷が用いられます。エンジン本体の冷却やEVのバッテリ冷却はこの水冷方式が多いです。
デメリットは部品点数が増えることによるコスト増
デメリットは冷却システムのコストも最も高くなることです。
水冷を実現させるためには、最低でもラジエータ、ウォーターポンプ、サーモスタットという補機部品が必要です。そのため、システムも大型化し、レイアウトも難しくなる傾向にあります。
油冷方式のメリット・デメリット
空冷と水冷の中間でバランスの取れた冷却方式
油冷は空冷と水冷のちょうど中間に位置する冷却方式です。
コストは空冷より高いが水冷より低い、冷却能力は空冷より高いが、水冷より低いというイメージです。
油冷には冷却機能と潤滑機能の2つの機能を持っている
油冷には冷却機能以外に潤滑機能を持っているので、エンジンやトランスミッションなどの回転部品では、焼き付きや錆を防ぐためにオイルを循環させています。
シミュレーションで空冷・水冷・油冷の冷却性能を比較
シミュレーションの前提条件
ここからは簡単なモデルを使って実際に冷却性能が、水冷>油冷>空冷になることを理論的に示します。比較するために閉回路中に温度一定の高温物体を1つ配置し、閉回路中を空気、オイル、冷却水のそれぞれの流体が循環するモデルを作りました。

図1は冷却性能を比較するために作ったモデルです。高温物体は常に100℃一定としましょう。
そして、空気・オイル・冷却水の初期温度を40℃として、閉回路を循環させます。やがて、それぞれの流体は高温物体と同じ100℃に達しますが、それまでにどのくらいの熱量を吸熱できるかを比較します。
吸熱できる熱量多ければ、それだけ冷却性能が高いことを示しています。
伝熱工学に基づいてシミュレーション
それぞれの流体の温度\(T_{air}[℃]\)、\(T_{oil}[℃]\)、\(T_{cool}[℃]\)は以下の式で計算できます。$$T_{air}=\int\frac{Q_{air}}{C_{air}}+T_{ini}$$$$T_{oil}=\int\frac{Q_{oil}}{C_{oil}}+T_{ini}$$$$T_{cool}=\int\frac{Q_{cool}}{C_{cool}}+T_{ini}$$ここで、高温物体からの移動熱量\(Q_{air}[\mathrm{W}]\)、\(Q_{oil}[\mathrm{W}]\)、\(Q_{cool}[\mathrm{W}]\)は熱伝達率\(h[\mathrm{W/K/m^2}]\)を用いて$$Q_{air}=h_{air}\cdot(100-T_{air})$$$$Q_{oil}=h_{oil}\cdot(100-T_{oil})$$$$Q_{cool}=h_{cool}\cdot(100-T_{cool})$$熱容量\(C_{air}[\mathrm{J/℃}]\)、\(C_{oil}[\mathrm{J/℃}]\)、\(C_{cool}[\mathrm{J/℃}]\)は$$C_{air}=\rho_{air}\cdot c_{air}\cdot V_{air}$$$$C_{oil}=\rho_{oil}\cdot c_{oil}\cdot V_{oil}$$$$C_{cool}=\rho_{cool}\cdot c_{cool}\cdot V_{cool}$$ここで、\(\rho[\mathrm{kg/m^3}]\)は密度、\(c[\mathrm{J/kg/℃}]\)は比熱、\(V[\mathrm{m^3}]\)は体積です。
簡単のために、\(V_{air}=V_{oil}=V_{cool}=1[\mathrm{m^3}]\)、\(h_{air}=h_{oil}=h_{cool}=1[\mathrm{W/K/m^2}]\)とします。また、空気・オイル・冷却水の密度と比熱は以下の表のように設定します。
密度 | 比熱 | |
空気 | 1.091 | 1008 |
オイル | 0.876 | 1955 |
冷却水 | 1.100 | 2474 |
シミュレーション結果の考察

図2は、空冷・油冷・水冷のそれぞれの流体温度の時系列を示しています。比熱の小さな空気が最も早く温度上昇をしている一方、比熱が最も大きい冷却水は温度上昇が緩やかになっています。
このように、比熱が大きな流体ほど熱容量が大きくなり、温度上昇率が緩やかになります。

図3は90s間のトータルの吸熱量を示しています。
温度上昇が早い空冷はすぐに高温物体との温度差がなくなってしまうため、吸熱できる量も少なくなります。一方、水冷は長い間高温物体と温度差を付けることができるので、トータルの吸熱量は最も多くなっています。比熱が空気と冷却水の中間に位置しているオイルは吸熱量も空冷と水冷の間になります。
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