流体領域の物理プラントモデル
これまで力学領域と熱領域のMBDの基礎について解説し、いよいよ後半戦です。[
「流体」と聞くと苦手意識を持っている人も多いのではないでしょうか?確かに、流体力学は理解するのがなかなか難しい分野でもあります。
しかし、このブログはMBD初心者向けに発信しているので、まずは流体領域のMBDで最もよく使う基本的な物理法則だけに絞って説明します。初心者の方にとって最も重要なことは数式とイメージがしっかり結び付いて考えられるようになることです。これができるようになれば、MBDの質は飛躍的に向上していきます。
流体領域の3つの基本物理法則
今回は、流体領域のMBDで頻出の①体積弾性率と圧力との関係と②ベルヌーイの定理と③連続の式の3つに絞って説明していきたいと思います。どれもMBDではよく使う基本法則なので、基礎を押さえておけばいろいろな応用が効くようになります。
体積弾性率と圧力の関係
体積弾性率\(K[\mathrm Pa]\)とは体積\(V[\mathrm m^3]\)の物体にある圧力\(p[\mathrm Pa]\)を掛けたときに、どれだけ体積変化しにくいかを表す物理量になります。以下は\(K\)の物質ごとの一覧になります。
物質 | 体積弾性率 |
空気 | \(1.4×10^5\) |
ヘリウム | \(1.7×10^5\) |
水 | \(2.2×10^9\) |
氷 | \(1.4×10^{10}\) |
鉄 | \(2.2×10^{11}\) |
これは見てわかることは気体は圧力を掛けると体積変化しやすく(圧縮されやすく)、液体や固体になるほど体積変化にくくなっていくことがわかります。これは皆さんの経験則と一致していますよね?このように圧縮性が高い流体を圧縮性流体、圧縮性が低い流体を非圧縮性流体と呼び、それぞれで使われる物理式も異なります。体積弾性率\(K\)は以下の式で表せます。$$dp=-K\frac{dV}{V}$$この式の両辺を時間微分すると以下の式になります。$$\frac{dp}{dt}=-\frac{K}{V}\cdot \frac{dV}{dt}$$ここで、\(dV/dt[\mathrm m^3/s]\)は体積流量と呼ばれます。1秒間に何\(\mathrm m^3\)の体積の流体が通過するかということです。\(Q=-dV/dt\)とおくと、$$\frac{dp}{dt}=\frac{K}{V}\cdot Q$$と式変形できます。最後に両辺を積分すると、$$p=\frac{K}{V}\int Qdt+p_{ini}$$となります。
この式は熱領域の記事で説明した、$$T=\int \frac{Q}{C}+T_{ini}$$と非常に式の形が似ていませんか?
熱領域では熱容量が大きいほど温度変化は穏やかになりますが、流体領域も考え方は同じです。式の通り、体積\(V\)が大きいほど、体積弾性率\(K\)が小さいほど圧力変化は穏やかになります。このように、熱領域と流体領域は似た考え方が適用できます。
ベルヌーイの定理
ベルヌーイの定理は非粘性、非圧縮性のときに成立するエネルギー保存則です。$$p_1+\frac{1}{2}\rho v_1^2+\rho gz_1=p_2+\frac{1}{2}\rho v_2^2+\rho gz_2=\mathrm{Const}$$第1項は静圧項、第2項は動圧項、第3項は位置エネルギー項と呼ばれます。簡単のため、径が異なるが高さは同じ配管モデルで考えてみましょう。

このようにすることで、位置エネルギー項がキャンセルされて、よりシンプルな式で考えられるようになります。$$p_1+\frac{1}{2}\rho v_1^2=p_2+\frac{1}{2}\rho v_2^2=\mathrm{Const}$$
連続の式
連続の式とは、配管中を流れる流体の質量流量はどこで測っても一定になるという定理です。質量流量は流速に通過断面積と密度を掛けて計算されるので、$$\rho_1 A_1 v_1=\rho_2 A_2 v_2$$非圧縮性流体の場合、密度一定なので\(\rho=\rho_1=\rho_2\)となり、$$A_1 v_1=A_2 v_2$$と書けます。
連続の式と上記のベルヌーイの定理の式を連立させると$$v_2=\frac{1}{\sqrt{1-(\frac{A_2}{A_1})^2}}\sqrt{\frac{2(p_1-p_2)}{\rho}}$$体積流量\(Q[\mathrm m^3/s]\)は流速×通過断面積なので、$$Q=v_2A_2=\frac{A_2}{\sqrt{1-(\frac{A_2}{A_1})^2}}\sqrt{\frac{2(p_1-p_2)}{\rho}}$$ここで、$$\alpha=\frac{\frac{A_2}{A}}{\sqrt{1-(\frac{A_2}{A_1})^2}}$$とおくと、$$Q=\alpha A\sqrt{\frac{2(p_1-p_2)}{\rho}}$$この\(\alpha\)は流量係数と呼ばれるパラメータで0〜1までの値を取り得る無次元量になります。
以上の計算から、非粘性、非圧縮性流体であれば、体積流量は圧力差の平方根に比例するということです。これもまた熱領域の伝熱工学の式$$Q=G(T_1-T_2)$$と似ていますよね。熱領域では移動熱量は温度差に比例していましたが、流体領域では圧力差の平方根に比例します。このように、熱領域と流体領域は非常に考え方が似ているので、セットで理解しておくとよいでしょう。
流体領域 | 熱領域 | |
圧力/温度 | $$p=\frac{K}{V}\int Qdt+p_{ini}$$ | $$T=\int \frac{Q}{C}dt+T_{ini}$$ |
体積流量/移動熱量 | $$Q=\alpha A\sqrt{\frac{2(p_1-p_2)}{\rho}}$$ | $$Q=G(T_1-T_2)$$ |
• 流体領域のMBDでは①体積弾性率と圧力の関係式、②ベルヌーイの定理、③連続の式の3つの基本法則を押さえる
• 流体領域と熱領域は同じ考え方ができる(圧力や温度の差に応じて流量や熱量が移動する。流量や熱量が移動すれば、その体積や熱容量に応じて圧力、温度が決まる)
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