冷却回路をモデル化し、様々なパラメータを振ってシミュレーションすることにより、冷却水の水温を予測します。ここでは、冷却水を用いた水冷を模擬しますが、冷却方式には主に空冷・油冷・水冷の3種類があります。
伝熱工学に基づいて冷却回路モデルの作成
モデルの前提条件
ここからは、冷却回路をモデル化していきます。対象の冷却回路モデルは図1で示します。

この冷却回路モデルを用いて、エンジン出口冷却水温度\(T_{eng_{out}}[℃]\)とラジエータ出口冷却水温度\(T_{rad_{out}}[℃]\)を計算していきます。エンジンから冷却水には冷却損失として、\(Q_{eng}[\mathrm{W}]\)の熱量が加わっているとします。
また、ラジエータ放熱量を\(Q_{rad}[\mathrm{W}]\)とします。\(Q_{rad}\)は伝熱工学の式から$$Q_{rad}=h_{rad}\cdot A\cdot(T_{eng_{out}}-T_{amb})$$で計算されます。ここで、\(h_{rad}[\mathrm{W/℃/m^2}]\)は熱伝達、\(A[\mathrm{m^2}]\)は伝熱面積、\(T_{amb}[℃]\)は外気温度です。
エンジン出口冷却水温度のモデリング
ここからは実際に冷却回路をモデリングしていきます。まず、エンジンのウォータジャケットに流入・流出する熱エネルギー\(Q_{wj}[\mathrm{W}]\)は$$Q_{wj}=Q_{wj_{in}}-Q_{wj_{out}}+Q_{eng}$$となります。ここで、\(Q_{wj_{in}}\)は$$Q_{wj_{in}}=q\cdot c\cdot\rho\cdot\frac{1}{1000\cdot 60}\cdot T_{rad_{out}}$$一方\(Q_{wj_{out}}\)は$$Q_{wj_{out}}=q\cdot c\cdot\rho\cdot\frac{1}{1000\cdot 60}\cdot T_{eng_{out}}$$\(q[\mathrm{L/min}]\)は冷却水の体積流量、\(c[\mathrm{J/kg/℃}]\)は冷却水の比熱、\(\rho[\mathrm{kg/m^3}]\)は冷却水の密度です。したがって、\(T_{eng_{out}}\)は$$T_{eng_{out}}=\frac{Q_{wj_{in}}-Q_{wj_{out}}+Q_{eng}}{C_{wj}}+T_{ini}$$となります。\(C_{wj}[\mathrm{J/℃}]\)はウォータジャケット内の冷却水の熱容量です。
ラジエータ出口冷却水温度のモデリング
こちらもエンジン出口冷却水温度のモデリングと同様の考え方でモデリングができます。ラジエータのコア内に流入・流出する熱エネルギー\(Q_{core}[\mathrm{W}]\)は$$Q_{core}=Q_{core_{in}}-Q_{core_{out}}-Q_{rad}$$となります。ここで、\(Q_{core_{in}}\)は$$Q_{core_{in}}=q\cdot c\cdot\rho\cdot\frac{1}{1000\cdot 60}\cdot T_{eng_{out}}$$一方\(Q_{core_{out}}\)は$$Q_{core_{out}}=q\cdot c\cdot\rho\cdot\frac{1}{1000\cdot 60}\cdot T_{rad_{out}}$$したがって、\(T_{rad_{out}}\)は$$T_{rad_{out}}=\frac{Q_{core_{in}}-Q_{core_{out}}-Q_{rad}}{C_{core}}+T_{ini}$$となります。\(C_{core}[\mathrm{J/℃}]\)はラジエータのコア内の冷却水の熱容量です。
ウォータポンプの回転数・流量・熱伝達率の関係
次に、ウォータポンプの回転数・流量・熱伝達率の関係を設定します。まずは、回転数と冷却回路の循環流量の関係です。

図2は、ウォータポンプ回転数と吐出流量の関係です。ここでは、例として回転数と吐出流量が線形特性を持っていると仮定します。

図3は、冷却回路循環流量とラジエータ熱伝達率の関係を示しています。こちらも簡単のため、流量と熱伝達率は線形特性としました。図2と図3から、ウォータポンプ回転数→ウォータポンプ吐出流量(冷却回路循環流量)→ラジエータ熱伝達率までがすべて繋がりましたね。
作成したモデルでシミュレーション
ここからいよいよ冷却回路モデルでシミュレーションをします。シミュレーションはExcelを使っています。
ラジエータ回路の場合
まずは、バイパスさせずラジエータ回路で循環させましょう。設定するパラメータですが、冷却水の主成分はエチレングリコールなので、\(\rho[\mathrm{kg/m^3}]=1070\)、\(c[\mathrm{J/kg/℃}]=2065\)。熱容量は\(C_{wj}=C_{core}=100[\mathrm{J/℃}]\)、エンジン発熱量\(Q_{eng}[\mathrm{W}]=5000\)、外気温度\(T_{amb}[℃]=0\)、初期温度\(T_{ini}[℃]=80\)とします。
最初は、ウォータポンプ回転数\(2000[\mathrm{rpm}]\)のときのシミュレーション結果です。図2、図3から、\(2000[\mathrm{rpm}]\)のときは流量\(20[\mathrm{L/min}]\)でラジエータ熱伝達率\(46[\mathrm{W/℃/m^2}]\)となります。

図4は、ウォータポンプ\(2000[\mathrm{rpm}]\)のときの冷却水温度を示しています。この結果を考察すると、ラジエータの放熱量がエンジンの発熱量に負けて、冷却水温度が初期温度から上がってしまっています。

図5は、ウォータポンプ\(5000[\mathrm{rpm}]\)のときの冷却水温度を示しています。熱伝達率が\(46\)から\(100\)に増加しているため、ラジエータの放熱量がエンジンの発熱量を上回り、冷却水温度が初期温度から下げられていることがわかります。
バイパス 回路の場合
最後は、サーモスタットによるバイパスの効果をモデルを使って確認します。バイパスさせずに100%ラジエータを通過させた場合と、40%ラジエータ、60%バイパスに分割した場合で、冷却水の暖機にどのような違いが出るかをシミュレーションします。このシミュレーションでは、ウォータポンプ回転数\(5000[\mathrm{rpm}]\)、初期温度\(T_{ini}[℃]=0\)とします。

図6から、ラジエータをバイパスさせるほうが早く冷却水の暖機が行えていることがわかります。これはバイパスさせることによって、ラジエータに流れる冷却水流量が減少するからです。流量が減少すると熱伝達率が低下し、結果的にラジエータ放熱量が低下します。
\(5000[\mathrm{rpm}]\)の場合は、バイパスさせないときはラジエータに\(50[\mathrm{L/min}]\)流れて、熱伝達率は\(100[\mathrm{W/℃/m^2}]\)となります。しかし、60%バイパスさせたときは、ラジエータの通過流量は\(20[\mathrm{L/min}]\)となるため、熱伝達率は\(46[\mathrm{W/℃/m^2}]\)で計算しています。
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