【自動車工学】コンプレッサ断熱効率の計算方法と燃費に与える影響

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実際のコンプレッサは様々な損失が加わるため、理想的な断熱圧縮をすることはありません。応用編として、より実際の動きに近いコンプレッサの理論を解説します。

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実際のコンプレッサはポリトロープ圧縮

ここからは実際のコンプレッサの圧縮過程が理論とどのように異なるのか説明していきます。

図1:断熱圧縮(理論)とポリトロープ圧縮(実際)のモリエル線図での違い

図1はモリエル線図上に、理論的なコンプレッサの圧縮と実際のコンプレッサの圧縮の違いを描いたものです。

理想的な断熱圧縮をした場合、紫色のラインのようにコンプレッサは等エントロピーに線に沿って圧縮が進んでいきます。しかし、実際のコンプレッサでは赤色のラインのようにエントロピーが増加しながら冷媒を圧縮していきます。エントロピーが増加するということは断熱圧縮ではないということです。実際の圧縮過程のことをポリトロープ圧縮と呼びます。

また、実際のコンプレッサが理論的な断熱圧縮からどのくらいかけ離れた圧縮をしたかの指標として、断熱効率が使われます。断熱圧縮した場合は断熱効率100%となりますが、そこから離れれば離れるほど断熱効率は悪化していきます

ポリトロープ圧縮は断熱圧縮と等温圧縮の中間的な圧縮

ポリトロープ圧縮とは断熱圧縮と等温圧縮の中間的な圧縮過程のことを指します。断熱圧縮とは外界とまったく熱のやり取りなしに圧縮することであり、一方等温圧縮とは外界と常に熱平衡状態を保ちながら圧縮することです。実際のコンプレッサでは、その間のような圧縮になるのです。つまり、完全に断熱でもなく、等温でもないというような中途半端な圧縮過程をとります。ポリトロープ圧縮による圧縮後の圧力、温度は断熱圧縮の式の比熱比がポリトロープ指数に置き換わるだけで表現ができます

$$p_2=p_1\varepsilon^n$$$$T_2=T_1\varepsilon^{n-1}$$断熱圧縮の比熱比\(\gamma\)の部分がポリトロープ指数\(n\)に置き換わっただけです。このポリトロープ指数が特定の値を取るとき、断熱圧縮や等温圧縮という特別な名前が与えられます

\(n=0\)\(p=\mathrm{Const}\)等圧圧縮
\(n=1\)\(pV=\mathrm{Const}\)等温圧縮
\(n=\gamma\)\(pV^\gamma=\mathrm{Const}\)断熱圧縮
\(n=\infty\)\(V=\mathrm{Const}\)等積圧縮

このようにポリトロープ指数が特定の値のときだけ特別な名前が与えれるので、それ以外の圧縮はすべてこれらの中間的な圧縮でありポリトロープ圧縮と呼びます。つまり、ポリトロープ圧縮とはより一般化された圧縮過程のことを指します。

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断熱効率100%にならない原因

実際のコンプレッサでは断熱効率100%(=断熱圧縮)にはなりません。これは機械抵抗によって生じた摩擦熱が冷媒に伝わったり、圧縮中に冷媒分子同士の衝突による熱が発生したりするためです。

また、外気からコンプレッサの構造体を伝熱して冷媒に入熱されるケースもあります。その場合は、外気温度が高くなるほど、入熱量が増えるため断熱効率は悪化していきます。

断熱効率の計算方法

ここからは断熱圧縮の計算方法について説明していきます。断熱圧縮\(\eta_{ad}\)は$$\eta_{ad}=\frac{h_2-h_1}{h_3-h_1}$$で計算されます。圧縮中の損失が多ければ多いほど、圧縮後の点は等エンタルピー線から右方向に離れていきます。そうなると圧縮後の比エンタルピー\(h_3\)もどんどん増加していくので、断熱効率が悪化していきます。

断熱効率の悪化がコンプレッサ動力とCOPに与える影響

最後に、断熱効率の悪化がコンプレッサ動力や冷凍サイクルのCOPにどのような影響を与えるのかを説明します。

コンプレッサ動力への影響

断熱圧縮のときのコンプレッサ動力\(L_{ad}\)は$$L_{ad}=G\cdot(h_2-h_1)$$で書けます。次に、ポリトロープ圧縮したときのコンプレッサ動力\(L_{poly}\)は$$L_{poly}=G\cdot(h_3-h_1)$$となります。この式を少し変形すると$$L_{poly}=G\cdot(h_2-h_1)+G\cdot(h_3-h_2)=L_{ad}+\Delta L$$つまり、断熱効率が低下すればするほどコンプレッサ動力は増加していきます。

冷凍サイクルのCOPへの影響

冷凍サイクルのCOPは以下の式で計算されます。$$COP=\frac{Q_{evap}}{L_{poly}}=\frac{Q_{evap}}{L_{ad}+\Delta L}$$ここで、\(Q_{evap}\)はエバポレータ吸熱量です。ヒートポンプサイクルの場合は\(Q_{evap}\)がコンデンサ 放熱量\(Q_{cond}\)に入れ替わります。

以上の計算から、コンプレッサの断熱効率が悪化すると動力が増加し、COPも低下してしまいます。

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断熱効率の悪化は自動車の燃費性能低下を招く

今回はコンプレッサの理論と実際の差に着目して解説をしてきました。理論では断熱圧縮を仮定しましたが、実際は摩擦熱などの損失が加わることでポリトロープ圧縮となります。また、断熱圧縮から離れれば離れるほど断熱効率は低下し、コンプレッサ動力はどんどん増加していきます。その結果として、サイクルのCOPは悪化し、燃費(電費)性能が低下してしまいます。したがって、空調を使っているときでも燃費性能の高い自動車を開発するためには、断熱効率の高いコンプレッサが必要不可欠なのです。

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