冷房と除湿の違いを知りたい
冷房と除湿の仕組みを理論的に解説
最近は猛暑が連日に続いていて、エアコンなしでは生活できない日が続いていますね。熱中症予防の観点からも、適切にエアコンは活用していきましょう!
ところで、エアコンのリモコンには冷房と除湿の2つのボタンがありますが、その違いはご存じでしょうか?
この記事では、冷房と除湿の違いについて解説をしていきます。冷房の仕組みは以前の記事で解説しているので、ここでは除湿の仕組みをメインにお伝えします。
このブログでは、自動車開発エンジニアの視点で理論的に説明している記事がたくさんあります。今回も理論的にエアコンで除湿が行われる仕組みを紹介します!
また、皆さんが気になっている電気代はどちらが安いのか?という疑問に対しても理論的に比較していきますよ!
この記事を読んで得られること
冷房と除湿の仕組みの違いが理解できるようになります。
仕組みを理解した上で、適切に使い分けしていきましょう!
私は現役の自動車開発エンジニアです
私は現役の自動車開発エンジニアであり、これまで電気自動車や水素自動車の開発に携わった経験があります。


エアコンに関連する仕事もしたことがあり、冷房や除湿の原理についても深いところまで理解しています。今回は、難しい数式などは使わずに解説をしていきます。
除湿するためには冷房する必要がある
加湿の原因になり得るもの
除湿をしなければならない理由は、除湿の対義語である加湿があるからです。
では、加湿の原因になるものは何でしょうか?
- 人間の呼気に含まれる水分
- 人間の汗
- 衣類に付いている水分
- 外気に含まれる水分(窓を開けている場合)
- 台所の料理などから蒸発する水分
上記の5つが加湿の主な原因になります。
人間の呼気に含まれる水分
1つ目は、呼気に含まれる水分です。そのため、部屋の中の人数が多くなるほど加湿されていきます。
人間の汗
2つ目は、人間の汗です。夏場は汗をかきやすく、その水分が蒸発することで加湿されてしまいます。
衣類に付いている水分
3つ目は、衣服に付いた水分です。雨の日に濡れたままの服で部屋の中で過ごしていると、付着した水分が蒸発し、これも部屋を加湿する原因となります。
外気に含まれる水分(窓を開けている場合)
4つ目は、外気に含まれる水分です。例えば、雨の日に窓ガラスを開けていると水分を多く含んだ空気が部屋の中に入ってきて加湿されてしまいます。
台所の料理などから蒸発する水分
5つ目は、台所の料理などから蒸発する水分です。パスタやうどんなどを茹でる場合、常に沸騰している鍋で茹でますが、相当な量の水蒸気が部屋中に放出され加湿の原因となります。
では、ここから部屋の湿度をどのようにすれば除湿できるかを解説していきます。空気線図というグラフを使えば、除湿がどのようなメカニズムで起こっているのかをイメージしやすくなります。詳細は以下の記事に記載しています。
除湿に必要なことは空気を冷やすこと
湿度の原因は空気中に存在する水蒸気です。
この水蒸気量が多ければ多いほど湿度は高くなり、人間は不快感を感じます。また、空気が含むことができる水蒸気量は空気の温度が高いほど多くなります。

図1は、空気温度と湿度の関係を表しています。今、空気中の水蒸気量は一定だとしましょう(青い棒グラフ)。空気の温度が高いときは、空気が含むことのできる水蒸気量(黒い点線の棒グラフ)が多くなるので湿度は低くなります。この空気が含むことのできる水蒸気量のことを飽和水蒸気量と呼びます。
空気の温度がだんだん下がってくると、飽和水蒸気量も減っていき、やがて存在している水蒸気量と同じ量になります。このときの温度を露点温度と呼び、相対湿度は100%になります。
空気中の水蒸気を除湿によって取り除くためには、空気を露点温度未満に冷やすこと(相対湿度を100%以上にすること)が必要不可欠です。つまり、冷房する必要があるということです。
では、なぜ除湿のためには空気を冷やさなければいけないのでしょうか?
相対湿度が100%を超えた分だけ除湿できる
相対湿度が100%になるということは、言い換えると空気が含むことのできる水蒸気の量が限界に達したということです。
空気の温度を露点温度より下げると、水蒸気(気体)として空気中に存在できなくなった水が凝縮して、液体の水として出てきます。これを結露とも言います。

図2は、空気温度と除湿量の関係を示しています。空気温度が露点温度未満になると、湿度は100%を超えます。100%を超えた部分の水蒸気は気体として存在できなくなり、凝縮水として液体の形で現れます。つまり、除湿は凝縮して液体となった水を部屋の外に排出することによって実現させているのです。
したがって、部屋の中を除湿したいのであれば、最低限露点温度以下になるまで冷房しなければならないのです。
露点温度について
露点温度は、空気が水蒸気をこれ以上保持できなくなる温度、つまり空気が飽和し、水蒸気が液体に変わり始める(つまり結露が始まる)温度を指します。それは主に以下の二つの要素によって決定されます:
- 空気中の水分量(絶対湿度):空気中に含まれる水蒸気の量が多いほど、露点温度は高くなります。なぜなら、水蒸気の量が多い空気は、より高い温度で飽和するからです。
- 空気の温度:温度が下がると、空気は少ない水蒸気しか保持できなくなります。したがって、空気の温度が下がると、露点温度も下がります。
これらの二つの要素が複雑に相互作用し合い、特定の条件下での露点温度を決定します。この原理は、気象学だけでなく、冷暖房、換気、空調(HVAC)システムの設計や運用にも広く適用されています。たとえば、空調装置は空気を冷却して露点温度を下げ、結露を引き起こし(これは冷却コイル上で行われます)、それによって空気中の水分を取り除きます。このプロセスは空調装置による除湿と呼ばれます。
さらに具体的には、露点温度を計算するための公式や方法もいくつか存在します。これらの計算は、相対湿度と現在の気温の値を基にして行われます。Clausius-Clapeyron方程式やその近似式であるAugust-Roche-Magnus方程式は、気象学やHVAC業界で露点温度を推計するために広く使用される方法の一つです。しかし、これらの計算は複雑で、一般的には気象ステーションのデータや特定のセンサー、または専門の計算ツールを使用して行われます。
エアコンの冷房と除湿は何が違う?
では、エアコンのリモコンに付いている冷房ボタンと除湿ボタンではいったい何が変わるのでしょうか?
答えはエアコンの室内機(エバポレータ)の中を通っている冷媒の温度が変わります。冷房のほうが、冷媒温度はより冷たくなります。
これは両者の目的の違いによるものです。冷房の目的は部屋の空気の温度を下げることであり、一方除湿の目的は部屋の湿度を下げることです。
- 冷房:部屋の空気の温度を下げる(設定温度に応じて冷媒温度も下げる必要がある)
- 除湿:部屋の空気の湿度を下げる(冷媒温度<露点温度であれば除湿はできる)
つまり、冷房モードでは設定温度になるまで部屋の空気を冷やす必要があるのに対して、除湿モードでは露点温度より少し低い温度まで冷房するだけで目的が達成されるため、それ以上に冷房する必要がないのです。
ちなみに、除湿量も当然除湿モードよりも冷房モードのほうが多くなります。これはより低い温度まで空気を冷やしたほうが、凝縮する水の量も増えるからです。

冷房と除湿で電気代はどっちがお得?
通常は冷房モード>除湿モード
電気代も当然、冷房モード>除湿モードとなります。
部屋の空気をより冷やすためには、冷媒の温度をより低くする必要があります。冷媒温度を下げるためには、エアコンの構成部品であるコンプレッサの回転数を上げて室内機(エバポレータ)に入ってくる冷媒の圧力を下げなければいけません。
しかし、コンプレッサの回転数が上がれば上がるほど消費電力が増えるため、電気代も上がってしまいます。これは熱力学・流体力学から理論的に示すことが可能です。詳細は以下の記事に記載しています。


再加熱式除湿モードは電気代が高い
ただし、再加熱式除湿モードを使う場合は、電気代が高くなるので注意が必要です。
再加熱式除湿とは、除湿された冷たい空気を加熱してから室内機から出す除湿方式のことです。部屋の湿度は下げたいけど寒いのは嫌という方にはオススメですが、加熱するときに大きな電力を使ってしまいます。
したがって、冷房、除湿、再加熱式除湿の3つを電気代の大きな順番に並び替えると、再加熱式除湿>冷房>除湿となります。
エアコンを使わずに部屋を除湿するコツ
ペットボトルを使った除湿が手軽でおすすめ
エアコンを使って除湿をすると、部屋全体の温度も下がってしまいます。部屋の空気温度はそのままで除湿のみをする方法があります。
それは、水を入れて凍らせたペットボトルをバケツや洗面器などに入れて部屋に置くことです。そうすることにより、ペットボトルの周辺の空気だけが冷やされて、ペットボトルに結露した水滴が付きます。その水滴をバケツや洗面器に溜めて、定期的に捨てることにより除湿をすることができます。
扇風機やサーキュレーターの風を当てるとより効果的
ペットボトルに扇風機やサーキュレーターの風を当てると、より除湿量が増えて効果的です。
その理由は、風を当てることによって熱伝達率が増加し、ペットボトルの内側の氷と外側の空気の熱交換がより活発になるからです。
熱伝達率とは、熱の伝わりやすさの指標であり、温度差が1℃付けば何Wの熱が移動するかを表しています。
一般的に、風速が上がると熱伝達率は高くなり熱交換が盛んに行われます。扇風機はこの原理を利用していますね。扇風機は弱よりも強にしたほうが涼しく感じるのは、熱伝達率が上がっているためです。
また、お風呂も普通の湯船に浸かるよりもジャグジー風呂のほうが温かくて気持ちいのは、水の熱伝達率が上がるからです。
もちろん、ペットボトルに当てる風速を上げると中の氷が溶けるスピードも早くなるので、定期的にペットボトルを交換してくださいね。
除湿した水滴は早めに捨てよう
除湿してバケツや洗面器に溜まった水滴は、早めに捨てましょう。
いつまでもそのままにしていると、だんだん温度が上がって水滴が蒸発して、再び水蒸気となって加湿されてしまうからです。
まとめ
今回は、除湿のメカニズムについて最初に解説をした後、冷房と除湿の違いや電気代の違いについて説明をしました。
これらの結論を以下で要約します。
- 除湿するためには部屋の空気の温度を下げる(冷房する)必要がある
- 空気の温度を露点温度以下まで下げることによって、除湿は実現する
- 冷房と除湿では室内機の中を通る冷媒温度が違う(冷房のほうが冷媒温度は低い)
- 電気代も冷媒温度をより下げなければならない冷房のほうが高くなる
- ただし、再加熱式除湿は加熱に大きな電力を消費するため注意が必要
- 凍らせたペットボトルでエアコンを使わずに除湿することができる
- ペットボトルに風を当てると熱伝達率が上がり、除湿が促進される
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