自動車開発は先行開発と量産開発に分かれる
自動車開発は、①先行開発と②量産開発の大きく2つに分かれます。まずは、それぞれの開発がどのようなことをしているか紹介します。
先行開発は将来のための要素技術開発
先行開発とは、将来社内で役に立つであろう要素技術開発を先回りして行う部署です。
最近では、自動車業界にもDXブームが到来していて、IT技術と絡めた先行開発が積極的に行われています。
具体的には、機械学習やディープラーニングなどのAI関連の技術や画像から物体を検出したり判別したりする画像処理技術やコンピュータビジョンはホットなテーマです。
量産開発は具体的な車種ごとの開発
一方、量産開発では具体的な車種の開発を行います。例えば、クラウンの開発やハリアーの開発といったように、車種別に担当者が割り当てられ開発を進めていきます。
量産開発は、車種ごとに分かれた後、さらに以下のように機能別に細分化されていきます。
車両開発
車両開発では、車両に関連するすべての機能開発を行います。
シャシー開発
シャシー開発では、プラットフォームと言われる車両の基礎の部分の開発を担当します。
シャシーは、車両全体の剛性を決める非常に重要な部分であり、乗り心地にも大きな影響を与えます。
ブレーキ開発
ブレーキ開発をいざという時に人員の命を守るための重要なパーツです。
ブレーキは車重によって要求される制動力が異なるので、車種に最適なブレーキ選びをしていきます。
内装開発
内装も車両開発の一部です。
内装では、シート開発、ドア開発、トリム開発などがあります。
シート開発では、乗員が長時間座っても疲れにくいシート形状の開発をしています。内装は意匠の開発要素も含まれているため、トリムの高級感や触り心地などの官能評価も行います。
衝突安全性能開発
衝突性能はダミー人形を乗せて、実際に試験場で車を障害物に衝突させます。
衝突した瞬間にダミー人形に掛かる力を計測し、そこから衝突に強い車体形状を作り込んでいきます。
最近では、シミュレーションの進化が著しいため、多くの検証をシミュレーションで行った後、最終確認として衝突試験をするというケースがほとんどです。
空調開発
空調開発は一見地味ですが、乗員の快適性を決める重要な機能開発です。
空調と聞くと、冷房だけのように思えますが、冷房と暖房の両方の機能開発をしています。
最近では、エンジンの熱効率が向上したり、車両の電動化が進んだりしているため、暖房性能を確保することが非常に難しくなっています。また、空調は燃費・電費性能とトレードオフになるため、制約も多く難しい開発が迫られています。
電子部品開発
電子部品開発とは、主にナビゲーションシステムなどのHMI(Human Machine Interface)の機能開発を行います。
近年ではCASEがブームになっており、電子部品開発の重要性が増してきています。
パワートレイン開発
パワートレインとは、動力源を意味しており、エンジン、ハイブリッドシステム、バッテリシステム、トランスミッションなどがその対象です。
エンジン開発
電気自動車が増えてきていますが、エンジンの需要はまだまだ健在です。
新興国ではインフラの整備不足から、エンジン車は当分残ると予測されており、引き続きエンジンの熱効率向上のための開発は続いていきます。
最近では、トヨタが水素エンジンを開発しており、エンジン生き残りの掛けて様々な工夫がされています。
HEV用ハイブリッドシステム開発
ハイブリッドシステムとは、エンジンとモーターとバッテリを組み合わせたシステムのことです。
それぞれの部品の選定はもちろんですが、ハイブリッドシステム開発で最も難しいのは制御開発と言われています。
どのタイミングでエンジン駆動からモーター駆動に切り替えるのか、モーターの力行と回生をどのように切り替えるのかなどの制御は非常に複雑で困難を極めます。
EV用バッテリ熱マネジメントシステム開発
EVでは、バッテリ熱マネジメントシステムがバッテリの劣化を抑制するために非常に重要です。
バッテリ熱マネジメントシステムでは、バッテリの冷却方式の選定から冷却システム内の部品設計、制御開発までを行います。
冷却方式は、①空冷、②水冷、③冷媒冷却の3種類が存在し、搭載するバッテリに合わせて最適な冷却方式を選定していきます。
トランスミッション開発
最後は、トランスミッション開発です。
トランスミッションは車両の特性を決める重要な部品の1つです。
スポーツカーのように高速域での伸びやかな加速を優先するのか、プリウスのように街乗りでの高い燃費性能を優先するのかによってギア比の設定が変わってきます。
先行開発と量産開発の大きな違いは時間の制約
先行開発と量産開発の最も大きな違いは時間の制約です。
先行開発はじっくり腰を据えて数年計画
先行開発は一般的にじっくりと腰を据えて、数年計画で進めていきます。時には外の研究機関と連携したり、大学と共同研究をしたりしながら、技術難易度の高い要素技術を手の内化していくことが求められます。
したがって、先行開発は一般的にそこまで1ヶ月の残業時間は多くないです。時間を掛ければ成果が出るというわけではないので、量ではなく質の高いアウトプットが求められます。
量産開発は開発納期との戦い
一方、量産開発は時間の制約が強く、常にバタバタしているという印象があります。それは、発売時期が既に決まっているため、開発納期を遅らせることができないからです。
開発が佳境に差し掛かっている場面では、残業時間は非常に多くなる傾向があります。場合によっては、休日出勤までして対応に追われるケースがあったりします。
先行開発と量産開発の要求スキルの違い
先行開発の要求スキル①:先見性の高い企画構想力
先行開発で要求されるスキルの1つ目は、「先見性の高い企画構想力」です。
先行開発は、ボトムアップで開発テーマを提案することが求められます。上司を納得させるためには、自分自身で将来の取り巻く環境の変化を想像し、そこからバックキャスティングして今必要な要素技術アイテムを提案する企画力が求められます。
先行開発の要求スキル②:まわりを巻き込む行動力
2つ目は、まわりの人をたくさん巻き込んで、規模の大きな開発を行うための行動力です。
先行開発は自分1人で閉じ籠っていてはいけません。積極的に外に出て、最新の技術動向を入手することも大事な仕事の1つです。
また、先行開発では研究機関や大学との共同研究も多いので、社外のエキスパートの方々と議論する行動力も必要です。
量産開発の要求スキル①:大量の仕事をこなす要領の良さ
1つ目は、大量の仕事をこなす要領の良さです。
量産開発では、とにかく仕事量が多いので、それらをてきぱきこなさなければなりません。常にスピード感を意識した業務が求めれます。
量産開発の要求スキル②:問題の原因を早く突き止める問題解決能力
2つ目は、問題の原因を早く突き止めるための問題解決能力です。
開発では狙いの結果が得られないという場面が多々あります。そんなとき、なぜ思っていたような性能が出ないのか、その原因を早く突き止めなければいけません。
そこで必要なのが問題解決能力です。ロジカルシンキングを活用して、問題の真因を早期発見する力が求められます。
量産開発の要求スキル③:取引先とWin-Winの関係を作る折衝能力
3つ目は、取引先とWin-Winの関係を結ぶための折衝能力です。
量産開発では、取引先との打ち合わせが非常に多くあります。そんなときに、自分の言い分ばかり押し通しても相手の理解を得られません。
お互いの利害が一致をさせ、Win-Winの関係を作るための折衝能力や交渉術も重要なスキルの1つです。
今回の記事の内容を要約
今回の内容を以下で箇条書きにして要約します。
- 自動車開発は、先行開発と量産開発の2種類に分けられる。
- 先行開発は、将来に先回りした要素技術開発であり、数年単位で研究機関や大学と連携しながら行う。
- 量産開発は、車種別に担当が割り当てられ、さらに機能別に細分化されている。
- 先行開発の要求スキルは、①先見性の高い企画構想力と②まわりを巻き込む行動力
- 量産開発の要求スキルは、①できぱき仕事をこなす要領の良さ、②問題の真因を早期発見する問題解決能力、③取引先との関係を円滑にする折衝能力
コメント