【自動車工学】エキスパンションバルブ(膨張弁)の構造と減圧・流量コントロールの仕組み

スポンサーリンク
エアコン
スポンサーリンク
スポンサーリンク

エキスパンションバルブ(膨張弁)の構造を図を使って解説

冷凍サイクル・ヒートポンプサイクルの構成部品の1つのであるエキスパンションバルブの構造から解説します。

図1:エキスパンションバルブの構造

図1は、エキスパンションバルブの構造を示しています。コンデンサで液化された冷媒が左側から流れてきます。

次に、ボール弁を通過するときに一気に減圧し、沸点が下がることにより冷媒は2相状態になりエバポレータに流入します。

最後に、エバポレータで空気と熱交換することにより冷媒は蒸発し、液からガスに状態変化します。エバポレータの出口には感温筒という部品がついており、この部品がエキスパンションのバルブ開度の調整に重要な役割を果たしています

スポンサーリンク

減圧と流量コントロールの仕組み

エキスパンションには減圧と流量コントロールという2つの機能を持っています。以下では、それぞれの機能がどのような仕組みで起こっているのかを解説します。

  • コンデンサから出た液体の冷媒を減圧し、気液2相状態の冷媒にすることによって、エバポレータで蒸発しやすくする
  • エバポレータ出口のスーパーヒート(過熱度)が常に5〜10℃を維持するように、冷媒流量をコントロールする

エキスパンションバルブで減圧できる仕組み

図2:オリフィスモデル

エキスパンションバルブの減圧の仕組みを図2のようなオリフィスモデルを使って解説します。オリフィス前の圧力、断面積、流速を\(p_1\)、\(A_1\)、\(v_1\)、オリフィス通過後の圧力、断面積、流速を\(p_2\)、\(A_2\)、\(v_2\)としましょう。

作動流体を非粘性かつ非圧縮性と仮定すると、ベルヌーイの定理が適用できるので$$p_1+\frac{1}{2}{v_1}^2=p_2+\frac{1}{2}{v_2}^2$$の関係が成り立ちます。この式を変形して$$p_2=p_1+\frac{1}{2}({v_1}^2-{v_2}^2)$$

次に、連続の式から$$A_1v_1=A_2v_2$$が成り立つので、$$v_2=\frac{A_1}{A_2}v_1$$と式変形できる。この2つの式から\(v_2\)を消去すると$$p_2=p_1+\frac{1}{2}(1-\frac{{A_1}^2}{{A_2}^2}){v_1}^2$$\(p_1=1.0[\mathrm{MPa}]\)、\(A_1=1.0[\mathrm{m^2}]\)、\(v_1=1.0[\mathrm{m/s}]\)としてシミュレーションしてみましょう。

図3:オリフィス断面積と通過後圧力の関係

図3のようにオリフィスの断面積が小さくなっていくにつれて、オリフィス通過時の圧力\(p_2\)は下がって(減圧して)いきます。これをエキスパンションバルブに置き換えて考えると、ボール弁が上に上がって通過断面積が小さくなるほど、冷媒は減圧されるようになります。

流量コントロールできる仕組み

流量コントロールする目的はコンプレッサ保護のため

エキスパンションバルブはサイクル内の冷媒循環量が最適となるようにバルブ開度を調整しています。ここでの最適とはエバポレータ出口で冷媒の過熱度(スーパーヒート)が5〜10℃取れているということです。

エバポレータが出たときに冷媒が2相状態のまま出てきても、過熱蒸気になりすぎていてもよくありません。2相状態の冷媒をコンプレッサが吸い込むと液体を圧縮してしまい故障の原因につながります。一方、スーパーヒートが高すぎるとコンプレッサ吐出温度も高くなり、これも故障の原因となります。

冷媒過熱度の定義と計算方法

冷媒の過熱度(スーパーヒート)とは冷媒の飽和蒸気温度からさらに何℃過熱されているかという物理量です。

図4:過熱度(スーパーヒート)と過冷却度(サブクール)の定義

スーパーヒート\(SH[\mathrm{℃}]\)は以下の式で計算することができます。$$SH=T_{ref}-T_{sat_{vap}}$$ここで、\(T_{ref}[\mathrm{℃}]\)は冷媒温度、\(T_{sat_{vap}}[\mathrm{℃}]\)は冷媒飽和蒸気温度です。

一方、飽和液線からどれだけさらに冷却されたかを示す量として、サブクール(過冷却度)があります。サブクール\(SC[\mathrm{℃}]\)は以下の式で計算することができます。$$SC=T_{ref}-T_{sat_{liq}}$$ここで、\(T_{ref}[\mathrm{℃}]\)は冷媒温度、\(T_{sat_{liq}}[\mathrm{℃}]\)は冷媒飽和液温度です。

感温筒でダイヤフラムをコントロール

図5:ボール弁の力の釣り合い

エキスパンションバルブは感温筒を使ってダイヤフラムを動かしています。ダイヤフラム上部には作動冷媒と同じ冷媒が密封されています。感温筒は通過する冷媒と熱交換しているため、エバポレータ出口の冷媒温度が変化すると感温筒の温度も同じように変化します

ボール弁の力の釣り合いから開度が決まる

バルブ開度はボール弁の鉛直方向の力の釣り合いから決まります。ばねの反力\(F_1[\mathrm{N}]\)とダイヤフラムからの反力\(F_2[\mathrm{N}]\)のバランスです。\(F_1\)はばね定数\(k[\mathrm{N/m}]\)と自然長からの変位\(x[\mathrm{m}]\)から$$F_1=-k\cdot x$$\(F_2\)はダイヤフラム上部圧力\(P_2[\mathrm{Pa}]\)とダイヤフラム下部圧力\(P_1[\mathrm{Pa}]\)とダイヤフラムの面積\(S[\mathrm{m^2}]\)から$$F_2=(P_2-P_1)\cdot S$$で計算できます。

スーパーヒートが大きい場合

エバポレータ出口のスーパーヒートが大きくなると、ダイヤフラム上部に密閉された冷媒の温度も上がることにより膨張します。

すると、ダイヤフラム上部の圧力が上昇するので、\(F_2\)が\(F_1\)より大きくなることによってボール弁が下に押し下げられます

ボール弁が下がると、冷媒の通過断面積が増えるので冷凍サイクル中の冷媒循環量が増加します。

スーパーヒートが小さい場合

反対に、スーパーヒートが低くなるとダイヤフラム上部の圧力も下がります。その場合、ばねの反力\(F_1>F_2\)となるため、ボール弁は押し上げられます。そうなると、通過断面積は小さくなり循環量も減少します。

スポンサーリンク

空調負荷とエキスパンションバルブ開度の関係

空調負荷とバルブ開度の関係について説明します。

例えば、夏場駐車場に放置していた車に乗ってエアコンを掛けたとします。そのとき、車室内の温度は50℃に達することもあります。そのようなときエバポレータ出口のスーパーヒートは非常に大きくなります。つまり、エバポレータの吸熱量に対してサイクル中の冷媒循環量が不足している状態です。そのときは、ダイヤフラム上部の圧力が高くなりボール弁を押し下げるので、循環量が増加します。

その後、エアコンが効いて車室内の温度は25℃くらいまで下がってきたシーンを考えます。エバポレータ出口のスーパーヒートは徐々に小さくなっていき、今度は吸熱量に対して冷媒が過剰になっている状態です。このままでは2相状態ままエバポレータから出てきてしまいます。この場合は、ボール弁が押し上げれて冷媒循環量を減らしていきます。

したがって、エバポレータの負荷(吸熱量)が大きいときは開度を広げて、負荷が小さいときは開度を絞って、常にエバポレータ出口のスーパーヒートが一定を保つようにしているのです。

スポンサーリンク

エキスパンションバルブとキャピラリーチューブの違い

エアコンには、エキスパンションバルブとキャピラリーチューブという二つの主な冷媒制御装置が存在します。これらはどちらも、冷媒の圧力を下げて膨張させ、蒸発器での熱交換を促進する役割を果たします。ただし、それぞれの装置は構造と働き方に一部異なる点があります。

エキスパンションバルブ

エキスパンションバルブは、エアコンシステムの冷媒流量を制御します。冷媒の圧力と温度を監視し、必要に応じて冷媒の流れを調整します。これは、蒸発器の温度を一定に保つために必要です。これにより、エアコンは常に最適なパフォーマンスを発揮します。

エキスパンションバルブは、より高度な制御が可能で、エアコンの性能を最大化します。しかし、一方でコストが高く、システムが複雑になることが欠点です。

キャピラリーチューブ

キャピラリーチューブは非常に狭いチューブで、冷媒がその内部を通ることで圧力が低下します。キャピラリーチューブはエキスパンションバルブと比べてシンプルな構造で、流れる冷媒量を固定で制御します。

キャピラリーチューブはエキスパンションバルブと比べて安価で、機械的には非常にシンプルです。しかし、そのシンプルさは一部の状況での性能低下を引き起こす可能性があります。たとえば、外部環境が大きく変化した場合、キャピラリーチューブはその変化に適応することができません。

したがって、適切な装置の選択は、コスト、パフォーマンス、およびシステムの複雑さに関する考慮事項に依存します。

スポンサーリンク

キャピラリーチューブのメリット・デメリット

キャピラリーチューブは冷媒の流れを制御するためにエアコンなどの冷却システムで使われます。ここではキャピラリーチューブの技術的なメリットとデメリットを詳細に解説します。

メリット

  1. 単純性:キャピラリーチューブは構造が単純で、装置自体は長く狭い管一本から成り立っています。このシンプルさにより、製造、設置、メンテナンスのコストが低下します。
  2. 耐久性:キャピラリーチューブには動く部品がないため、故障率が非常に低いです。これは長期的な耐久性と信頼性につながります。
  3. コスト:エキスパンションバルブと比べて、キャピラリーチューブは製造と設置のコストが低いです。これにより、装置全体の製造コストを下げることができます。

デメリット

  1. 制御精度:キャピラリーチューブは流れる冷媒の量を動的に調整する能力がありません。これにより、環境条件が変化した際にシステムの冷却性能が低下する可能性があります。
  2. 環境適応性:キャピラリーチューブは定常的な作業条件に対しては非常に効率的ですが、大きな負荷の変化には対応が難しいです。例えば、外部の気温が急に上昇した場合、キャピラリーチューブの冷却性能が適切に応答するのは難しいです。
  3. 適切な設計と取り付け:キャピラリーチューブの性能は、その長さと直径、曲がり角、そして取り付けの向きに強く依存します。これらのパラメータが不適切な場合、システムの性能にネガティブな影響を及ぼす可能性があります。

以上がキャピラリーチューブの主なメリットとデメリットです。キャピラリーチューブは非常にシンプルで耐久性がありますが、一方で環境変化に対する適応性が低いというデメリットがあります。そのため、設計段階でシステムの使用条件をよく理解し、それに最適な選択をすることが重要です。

スポンサーリンク

固定オリフィスとキャピラリーチューブの違い

固定オリフィスとキャピラリーチューブは、冷却システムにおける冷媒流量を制御するための装置で、その目的は同じですが、設計と動作には重要な違いがあります。

  1. 固定オリフィス: 固定オリフィスは、その名前が示す通り、固定された開口部(オリフィス)を有する装置で、冷媒の流れを制御します。冷媒がこの開口部を通過すると、圧力が下がり、その結果として冷媒が膨張します。固定オリフィスは基本的に調整可能な部分がないため、システムの操作条件によっては最適な性能を発揮できない場合があります。したがって、固定オリフィスは通常、比較的安定した操作条件を持つシステムで使用されます。
  2. キャピラリーチューブ: キャピラリーチューブは、非常に細いチューブで、冷媒がその内部を通ることで圧力が低下します。チューブの長さと直径が冷媒の流れを制御します。キャピラリーチューブは固定オリフィスと比較して長さがあります。これにより、一定の制御性を提供しますが、それでも外部環境の大きな変化に対応する能力は限定的です。

以下は、固定オリフィスとキャピラリーチューブの主な違いを概説したものです。

  1. 長さと形状:キャピラリーチューブは長く、細いチューブです。これに対し、固定オリフィスは小さい開口部を持つ装置です。
  2. 制御性:キャピラリーチューブの長さにより、冷媒の流れに対するある程度の制御性があります。一方、固定オリフィスは流れを調整する機能がほとんどありません。
  3. 適用システム:固定オリフィスは比較的安定した運転条件を持つシステムに適しています。一方、キャピラリーチューブはある程度の変動条件に対応できますが、大きな変動には対応できません。

したがって、どちらの装置を選択するかは、システムの特定の需要と運転条件によるところが大きいです。

エアコン
スポンサーリンク
スポンサーリンク
モデリーマンをフォローする
スポンサーリンク
現役自動車開発エンジニアの自動車工学ブログ

コメント

error:Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました