エキスパンションバルブ(膨張弁)の構造を図を使って解説
冷凍サイクル・ヒートポンプサイクルの構成部品の1つのであるエキスパンションバルブの構造から解説します。



図1は、エキスパンションバルブの構造を示しています。コンデンサで液化された冷媒が左側から流れてきます。次に、ボール弁を通過するときに一気に減圧し、沸点が下がることにより冷媒は2相状態になりエバポレータに流入します。最後に、エバポレータで空気と熱交換することにより冷媒は蒸発し、液からガスに状態変化します。エバポレータの出口には感温筒という部品がついており、この部品がエキスパンションのバルブ開度の調整に重要な役割を果たしています。
減圧と流量コントロールの仕組み
エキスパンションには減圧と流量コントロールという2つの機能を持っています。以下では、それぞれの機能がどのような仕組みで起こっているのかを解説します。
エキスパンションバルブで減圧できる仕組み

エキスパンションバルブの減圧の仕組みを図2のようなオリフィスモデルを使って解説します。オリフィス前の圧力、断面積、流速を\(p_1\)、\(A_1\)、\(v_1\)、オリフィス通過後の圧力、断面積、流速を\(p_2\)、\(A_2\)、\(v_2\)としましょう。
作動流体を非粘性かつ非圧縮性と仮定すると、ベルヌーイの定理が適用できるので$$p_1+\frac{1}{2}{v_1}^2=p_2+\frac{1}{2}{v_2}^2$$の関係が成り立ちます。この式を変形して$$p_2=p_1+\frac{1}{2}({v_1}^2-{v_2}^2)$$
次に、連続の式から$$A_1v_1=A_2v_2$$が成り立つので、$$v_2=\frac{A_1}{A_2}v_1$$と式変形できる。この2つの式から\(v_2\)を消去すると$$p_2=p_1+\frac{1}{2}(1-\frac{{A_1}^2}{{A_2}^2}){v_1}^2$$\(p_1=1.0[\mathrm{MPa}]\)、\(A_1=1.0[\mathrm{m^2}]\)、\(v_1=1.0[\mathrm{m/s}]\)としてシミュレーションしてみましょう。

図3のようにオリフィスの断面積が小さくなっていくにつれて、オリフィス通過時の圧力\(p_2\)は下がって(減圧して)いきます。これをエキスパンションバルブに置き換えて考えると、ボール弁が上に上がって通過断面積が小さくなるほど、冷媒は減圧されるようになります。
流量コントロールできる仕組み
流量コントロールする目的はコンプレッサ保護のため
エキスパンションバルブはサイクル内の冷媒循環量が最適となるようにバルブ開度を調整しています。ここでの最適とはエバポレータ出口で冷媒の過熱度(スーパーヒート)が5〜10℃取れているということです。
エバポレータが出たときに冷媒が2相状態のまま出てきても、過熱蒸気になりすぎていてもよくありません。2相状態の冷媒をコンプレッサが吸い込むと液体を圧縮してしまい故障の原因につながります。一方、スーパーヒートが高すぎるとコンプレッサ吐出温度も高くなり、これも故障の原因となります。


冷媒過熱度の定義と計算方法
冷媒の過熱度(スーパーヒート)とは冷媒の飽和蒸気温度からさらに何℃過熱されているかという物理量です。

スーパーヒート\(SH[\mathrm{℃}]\)は以下の式で計算することができます。$$SH=T_{ref}-T_{sat_{vap}}$$ここで、\(T_{ref}[\mathrm{℃}]\)は冷媒温度、\(T_{sat_{vap}}[\mathrm{℃}]\)は冷媒飽和蒸気温度です。
一方、飽和液線からどれだけさらに冷却されたかを示す量として、サブクール(過冷却度)があります。サブクール\(SC[\mathrm{℃}]\)は以下の式で計算することができます。$$SC=T_{ref}-T_{sat_{liq}}$$ここで、\(T_{ref}[\mathrm{℃}]\)は冷媒温度、\(T_{sat_{liq}}[\mathrm{℃}]\)は冷媒飽和液温度です。
感温筒でダイヤフラムをコントロール

エキスパンションバルブは感温筒を使ってダイヤフラムを動かしています。ダイヤフラム上部には作動冷媒と同じ冷媒が密封されています。感温筒は通過する冷媒と熱交換しているため、エバポレータ出口の冷媒温度が変化すると感温筒の温度も同じように変化します。
ボール弁の力の釣り合いから開度が決まる
バルブ開度はボール弁の鉛直方向の力の釣り合いから決まります。ばねの反力\(F_1[\mathrm{N}]\)とダイヤフラムからの反力\(F_2[\mathrm{N}]\)のバランスです。\(F_1\)はばね定数\(k[\mathrm{N/m}]\)と自然長からの変位\(x[\mathrm{m}]\)から$$F_1=-k\cdot x$$\(F_2\)はダイヤフラム上部圧力\(P_2[\mathrm{Pa}]\)とダイヤフラム下部圧力\(P_1[\mathrm{Pa}]\)とダイヤフラムの面積\(S[\mathrm{m^2}]\)から$$F_2=(P_2-P_1)\cdot S$$で計算できます。
スーパーヒートが大きい場合
エバポレータ出口のスーパーヒートが大きくなると、ダイヤフラム上部に密閉された冷媒の温度も上がることにより膨張します。すると、ダイヤフラム上部の圧力が上昇するので、\(F_2\)が\(F_1\)より大きくなることによってボール弁が下に押し下げられます。ボール弁が下がると、冷媒の通過断面積が増えるので冷凍サイクル中の冷媒循環量が増加します。
スーパーヒートが小さい場合
反対に、スーパーヒートが低くなるとダイヤフラム上部の圧力も下がります。その場合、ばねの反力\(F_1>F_2\)となるため、ボール弁は押し上げられます。そうなると、通過断面積は小さくなり循環量も減少します。
空調負荷とエキスパンションバルブ開度の関係
空調負荷とバルブ開度の関係について説明します。
例えば、夏場駐車場に放置していた車に乗ってエアコンを掛けたとします。そのとき、車室内の温度は50℃に達することもあります。そのようなときエバポレータ出口のスーパーヒートは非常に大きくなります。つまり、エバポレータの吸熱量に対してサイクル中の冷媒循環量が不足している状態です。そのときは、ダイヤフラム上部の圧力が高くなりボール弁を押し下げるので、循環量が増加します。
その後、エアコンが効いて車室内の温度は25℃くらいまで下がってきたシーンを考えます。エバポレータ出口のスーパーヒートは徐々に小さくなっていき、今度は吸熱量に対して冷媒が過剰になっている状態です。このままでは2相状態ままエバポレータから出てきてしまいます。この場合は、ボール弁が押し上げれて冷媒循環量を減らしていきます。
したがって、エバポレータの負荷(吸熱量)が大きいときは開度を広げて、負荷が小さいときは開度を絞って、常にエバポレータ出口のスーパーヒートが一定を保つようにしているのです。
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