【自動車工学】ガソリンエンジンで4つの損失が起きる仕組み

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実際のガソリンエンジンでは様々な損失があるため、理論サイクルであるオットーサイクルと同じサイクルにはなりません。今回は、実際のガソリンエンジンで起こる様々な損失について説明し、オットーサイクルとの違いが理解できるように解説します。

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実サイクルのPV線図で4つの損失を理解

まず、理論サイクルであるオットーサイクルと実際のガソリンエンジンのサイクルをPV線図を使って比較します。

図1:オットーサイクルと実サイクルの比較

図1は、オットーサイクルと実サイクルを比較したPV線図になります。点線がオットーサイクル、実線が実際サイクルです。実サイクルには、①時間損失②冷却損失③排気吹き出し損失④ポンプ損失という4つの損失が存在するため、1→2→3→4で作られるループが小さくなっていることがわかります。

エンジンがする仕事\(W\)は$$W=\oint PdV$$で計算できるので、ループの面積がエンジンがする仕事\(W\)と対応します。つまり、実際のサイクルは4つの損失によって\(W\)が目減りしているのです。ポンプ損失のループは反時計回りのループなので、積分した値はマイナスになります。つまり、このループは損失としてカウントしなければなりません。

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実サイクルで4つの損失が生じる原因

ここからは実サイクルの各損失について解説していきます。

時間損失

時間損失とはある現象が完了するために有限の時間が必要になることによる損失です。ガソリンエンジンではガソリンが燃焼し始めてから終わるまでに有限の時間が掛かるということです。オットーサイクルでは上死点(TDC)で点火すると、その瞬間にすべてのガソリンが燃焼すると仮定しています。しかし、実サイクルはTDCの前に点火しても、燃焼が完了する頃には既に膨張行程に入っています。このときに生じるオットーサイクルとの差が時間損失となります。

冷却損失

冷却損失は主に膨張行程で生じる損失です。燃焼直後はシリンダー内の温度は非常に高温になります。そうなると、シリンダーの内と外で温度差が大きくなるため、シリンダー内の熱がシリンダー側面やピストンを伝って外に逃げていくのです。冷却損失を\(Q_{Loss}[\mathrm{W/K}]\)とすると、伝熱工学の式から$$Q_{Loss}=h\cdot A\cdot (T_{cyl_{in}}-T_{cyl_{out}})$$となります。ここで、\(h[\mathrm{W/K/m^2}]\)は熱伝達率、\(A[\mathrm{m^2}]\)は伝熱面積、\(T_{cyl_{in}}[\mathrm{K}]\)はシリンダー内温度、\(T_{cyl_{out}}[\mathrm{K}]\)はシリンダー外温度です。

排気吹き出し損失

排気吹き出し損失は、膨張行程の終盤で排気バルブを開くことによって、高圧・高温の大きなエネルギーを持ったガスをシリンダー外に捨ててしまうことによる損失です。

排気バルブを開けるタイミングを下死点(BDC)まで遅らせれば膨張行程中の排気吹き出し損失は0になりますが、その代わりにポンプ損失が増加します。つまり、排気吹き出し損失とポンプ損失はトレードオフの関係にあり、2つの損失の和を最小化するように設計することが求められます。

ポンプ損失

ポンプ損失とはエンジンが吸排気するために仕事を行うことによる損失です。

吸気工程中のポンプ損失

まず、吸気行程中のポンプ損失から説明します。自然吸気エンジンではシリンダー内を負圧にして、フレッシュな空気を吸い込むということを前回の記事で紹介しました。

注射器の穴を塞いだままピストンを引くことをイメージしてください。穴を塞いでいると、ピストンを引いても外から空気が入ってこないので、中はどんどん負圧になります。そうなるとピストンの外は大気圧なので、外からピストンを押し返す方向に力が作用します。つまり、その押し返される力に逆らってピストンを引かなければなりません。これがポンプ損失の正体です。

図2:吸気行程中のポンプ損失

図2は、吸気行程中のポンプ損失のイメージを示しています。シリンダー内圧\(P_{cyl}\)が負圧になるほど外側が大気圧\(P_{atm}\)との圧力差が大きくなり、ピストンは下から上に押し返される力が強くなります。この外力に打ち勝つ仕事が吸気行程中のポンプ損失です。

排気行程中のポンプ損失

次に、排気行程中のポンプ損失について説明します。これを注射器で説明します。今度は穴を塞いだままピストンを押し込むことをイメージしてください。ピストンを押しても穴が塞がっていて空気が出ていかないため、中の圧力はどんどん上がっていきます。そうなるとピストンの外は大気圧なので、中から外に向かってピストンを押し返す方向に力が作用します。つまり、押し返される力に逆らってピストンを押し込んでいかなければならないのです。

図3:排気行程中のポンプ損失

図3は排気行程中のポンプ損失のイメージを示してします。吸気行程と逆で、ピストンが上昇するにつれてシリンダー内圧\(P_{in}\)は正圧(大気圧より高い圧力)になっていきます。シリンダーの外側は大気圧\(P_{atm}\)は固定なので、どんどん圧力差が拡大していき、ピストンを上から下に向かって押し返す力が強くなっていきます。この外力に打ち勝つ仕事が排気行程中のポンプ損失です。

以上のように、空気を吸い込む、吐き出すときに必要な仕事のことをポンプ損失と呼びます。先ほど、排気バルブを開けるタイミングをBDCにするとポンプ損失が増加すると説明しました。これは排気バルブを開けるタイミングが遅れると、排気行程が始まるときのシリンダー内圧が非常に高くなり、その圧力に逆らってピストンを上昇させなければならないからです。

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