ヒートポンプの仕組みと成績係数(COP)が1以上になる理由!今後は電気自動車の暖房の主流!

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ヒートポンプは電気自動車(EV)の電費性能向上のキーアイテム

ヒートポンプサイクルはEV技術のトレンドになる

電気自動車の電費性能の向上は自動車メーカーの中で最もホットな開発課題です。

ヒーターを使った暖房ではなくヒートポンプサイクルを利用した暖房がEVの電費向上技術のトレンドになろうとしています

この記事では、まず最初にヒートポンプサイクル暖房の原理を説明します。次に、ヒートポンプサイクル暖房がヒーターを使った暖房よりも消費エネルギーが少なくて済む(成績係数が高い)ことを証明していきます。

  • ヒートポンプサイクルの仕組みを解説
  • ヒートポンプサイクルの成績係数が1以上になる理由を解説(通常の電気式ヒーターの成績係数は1以下にしかならない)

電気自動車の弱点は暖房使用時の航続距離低下

最初に、電気自動車の弱点について解説します。電気自動車の弱点はエンジン自動車よりも航続距離が短いということはご存知の方も多いと思います。その中でも最も航続距離の低下が著しいのが、冬場の暖房使用時です。

暖房用の熱源が不足することが原因

従来のエンジン自動車と異なり、電気自動車は暖房用の熱源が不足します。エンジン自動車はエンジンから排気される高温のガスを暖房に利用できるため、熱源は豊富にありました。しかし、電気自動車は大きな熱源であるエンジンが搭載されていません。したがって、その熱源を補うために、暖房用の専用ヒーターなどを使わざるを得ないのです。

もちろん、ヒーターの電力源はバッテリなので、ヒーターで暖房すればするほどバッテリの残量は減っていき、走行に使えるエネルギーが失われてしまうのです。

成績係数(COP)の高いヒートポンプサイクルでEVの弱点を克服

COPとはCoefficient of Performanceの略で、成績係数と呼ばれます。COPは投入した仕事に対する有効的な仕事の比率であり、ヒートポンプサイクルの最大の特徴はCOPが1より大きいということです。例えば、COP=2であれば、1kWのコンプレッサの消費電力に対して、2kW分の暖房性能が出せるとういうことです。

言い換えると、同じ暖房性能の出すための消費電力が半分で済むということです。COP=1であれば1kWの暖房性能を得るのに1kWのエネルギーを投入しなければいけません。しかし、COP=2であれば500Wの投入エネルギーで1kWの暖房性能が得られるので、より省エネで暖房できるのです。省エネで暖房できれば消費電力が減り、当然航続距離が延びるわけです。

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エアコンのCOP(性能係数)とは何か?:最新の省エネ技術を理解する

はじめに

現代のエアコン技術は、高効率で環境にやさしい製品へと進化しています。この進化の中心にあるのが「COP(Coefficient of Performance、性能係数)」という指標です。本記事では、COPの基本的な定義から、その計算方法、そして高いCOPを持つエアコンの選び方について詳しく解説します。

COPの基本的な定義

COPは、エアコンが消費する電力量に対してどれだけの冷暖房効果を発揮するかを示す数値です。公式には、冷暖房効果を電力消費量で割った値として定義されます。この値が高いほど、エネルギー効率が良いとされています。

COPの計算方法

COPの計算方法は以下の通りです。 COP=冷暖房効果(単位:W)消費電力量(単位:W)COP=消費電力量(単位:W)冷暖房効果(単位:W)​この式から、エアコンが1Wの電力を使って何Wの冷暖房効果を生み出しているかがわかります。

高COPエアコンのメリット

高いCOPを持つエアコンには以下のようなメリットがあります。

  1. 省エネルギー:電力消費が少ないため、電気代の節約につながります。
  2. 環境保護:エネルギー効率の高い製品は、CO2排出量の削減に貢献します。

高COPエアコンの選び方

効率的なエアコンを選ぶ際のポイントは以下の通りです。

  • 製品のエネルギー消費効率ラベルをチェック:ラベルにはCOP値が表示されています。
  • 最新技術の確認:インバーター技術など、最新の省エネ技術が搭載されているかを確認します。

まとめ

COPはエアコンのエネルギー効率を測る重要な指標です。高いCOP値を持つ製品を選ぶことで、省エネルギーと環境保護の両立が可能になります。

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ヒートポンプサイクルで暖房できる仕組み

ヒートポンプサイクルは冷凍サイクルの逆サイクルであり、原理は冷凍サイクルとまったく同じです。

図1:ヒートポンプサイクルの概念図

図1はヒートポンプサイクルの概念図を示しています。

  • コンプレッサ:冷媒を高圧・高温のガス(気体)に圧縮する
  • コンデンサ:車室内の冷たい空気と熱交換して暖房する
  • 膨張弁:冷媒を減圧させて、低圧・低温の気液2相状態にする
  • エバポレータ:外気の空気と熱交換させて、熱を汲み上げる(冷媒は気体に蒸発する)

コンプレッサで冷媒を圧縮して高温のガスにする

まず、コンプレッサで冷媒を圧縮することにより、冷媒を高圧かつ高温のガス状態にします。

この高温の熱エネルギーが暖房に使用されるエネルギーの源泉になります。

コンプレッサで圧縮後の冷媒ガスの温度は、コンプレッサの「断熱効率」で変化します。断熱効率が悪ければ悪いほど、圧縮後の冷媒ガスの温度は上昇し、暖房性能としては上がります。

しかし、コンプレッサの仕事量も増えてしまうので電費性能は低下してしまいます。

コンデンサで高温冷媒ガスの熱を車室内に放熱して暖房

コンデンサが実際に車室内に暖房を行う部分です。

コンプレッサで圧縮されて高温・高圧になった冷媒ガスは、コンデンサの中で車室内の冷たい空気と熱交換することにより、車室内の空気が暖房されます。

車室内の冷たい空気は高温の冷媒から熱を受け取るため、温度が上昇(暖房)します。一方、空気に放熱した冷媒はエネルギーを失うため、気体から液体に状態変化(凝縮)します。

膨張弁で冷媒を低温・低圧に膨張

コンデンサを出て液体になった冷媒は、次に膨張弁を通過することにより減圧されます。

減圧した冷媒は低圧・低温の気液2相状態(沸騰状態)となります。これで次のエバポレータで外気から熱をたくさん汲み上げる準備が整いました。

エバポレータで外気から熱を汲み上げる

最後に、エバポレータで外気と空気と気液2相状態になった冷媒が熱交換をすることにより、冷媒は気化熱をもらって気体に蒸発します。

この外気から熱をもらって冷媒が気体へと状態変化する過程が「ヒートポンプ」と呼ばれる所以です。ヒートポンプサイクルは、外気から熱を汲み上げる(外気と熱交換する)することにより、より大きな熱エネルギーを暖房に使うことができるのです。

気化した冷媒は再びコンプレッサに吸入され、上記の4つの状態変化が連続的に行われていきます。

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ヒートポンプサイクルの成績係数(COP)が1以上になる理由

ここからは、なぜヒートポンプサイクルの成績係数(COP)が1以上になるのかを理論的に解説していきます。

結論から説明すると、ヒートポンプサイクルはコンプレッサがするエネルギーと外気からタダで汲み上げるエネルギーのトータルを暖房エネルギーに使うことができるからです!

  • ヒートポンプサイクルは、外気からタダ(消費エネルギー0)でエネルギーを汲み上げて、それを暖房に使用できるため、COPが1以上になる。

言い換えると、ヒートポンプサイクルはコンプレッサがする圧縮仕事+エバポレータが外気から組み上げた熱量の和を暖房エネルギーに使えるということです。

比較対象として、ヒートポンプサイクルと通常の電気ヒータを比べてながら説明します。

モリエル線図(p-h線図)を使って解説

ここからはモリエル線図を使って、なぜヒートポンプサイクルのCOPがCOP≧1になるのかを説明します。まずモリエル線図とは冷媒のすべての状態(圧力、温度、比エンタルピー、エントロピー、比容積、乾き度)がわかるグラフです。

図2:ヒートポンプサイクルのモリエル線図

図2からわかるように、暖房性能(コンデンサ放熱量\(Q_{cond}\))はコンプレッサ動力\(L_{comp}\)とエバポレータ吸熱量\(Q_{evap}\)との和で決まります。$$Q_{cond}=L_{comp}+Q_{evap}$$ヒートポンプサイクルのCOPは暖房性能\(Q_{cond}\)とコンプレッサ動力\(L_{comp}\)との比率で定義されるので$$COP=\frac{Q_{cond}}{L_{comp}}=\frac{L_{comp}+Q_{evap}}{L_{comp}}=1+\frac{Q_{evap}}{L_{comp}}≧1$$となり、COPがCOP≧1となることが説明できます。

COP>1になる理由を噛み砕いて説明すると、ヒートポンプサイクルの暖房性能はコンプレッサの動力(消費電力≠0)とエバポレータで外気から汲み上げたエネルギー(消費電力=0)で決まるため、外気からタダでもらったエネルギーも暖房に利用できるからです。このタダでもらえるエネルギーが増えれば増えるほど、ヒートポンプサイクルのCOPは上がっていきます。

エバポレータ吸熱量を増やすためには

エバポレータ吸熱量\(Q_{evap}\)が増えるほど、COPも上がると説明しました。では、どうすれば\(Q_{evap}\)が増えるのか考えましょう。まず、\(Q_{evap}\)は伝熱工学の中の熱伝達という現象が起こることによって、外気から冷媒にエネルギーが移動します。$$Q_{evap}=h_{evap}\cdot A_{evap}\cdot (T_{amb}-T_{ref})$$ここで、\(h_{evap}[\mathrm{W/K/m^2}]\)はエバポレータ熱伝達率、\(A_{evap}[\mathrm{m^2}]\)は伝熱面積、\(T_{amb}[\mathrm{K}]\)は外気温度、\(T_{ref}[\mathrm{K}]\)は冷媒温度です。

したがって、\(Q_{evap}\)を大きくするためには、①熱伝達率\(h_{evap}\)を増やす、②伝熱面積\(A_{evap}\)を増やす、③外気温度\(T_{amb}\)が上がるの3つのパターンがあります。

外気温度が低くなると熱を汲み上げられなくなるためCOPが低下する

ヒートポンプサイクルのデメリットは、外気温度が低くなるとCOPが悪化するという点です。

上記の計算式で記述されるように、ヒートポンプサイクルのCOPは外気温度が高ければ高いほど、向上します。これは外気温度が高いほどたくさんの熱をエバポレータで汲み上げることができるからです。

しかし、外気温度が低いときはエバポレータでの熱交換量がどんどん小さくなってしまいます。さらに、外気温度が低いと冷媒の圧力も低下してしまうため、ヒートポンプサイクル中の冷媒流量も低下します。

エバポレータの熱伝達率は冷媒流量と正の相関を持つため、流量が減ると熱伝達率も一緒に下がってしまい、熱伝達率の低下と外気温度の低下のダブルのマイナス効果を受けてしまいます。

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ヒーターはエネルギー変換機能しか持たないためCOP≦1

一方、ヒーターのCOPはCOP≦1にしかなりません。それは、ヒーターは電気エネルギーを熱エネルギーに変換しているに過ぎないからです。電気エネルギーが効率100%で熱エネルギーに変換されたとしてもCOP=1です。実際にはエネルギー変換ロスがあるため、ヒーターのCOPはCOP=0.8〜0.9になるのが一般的です。

したがって、ヒートポンプサイクルとヒーターではCOPの値がまったく異なります。特に、外気温度\(T_{amb}\)が高い環境下ではヒートポンプサイクルとヒーターのCOP差は拡大する傾向にあります。しかし、外気温度が氷点下などの低い環境下になると、エバポレータは外気から熱エネルギーを汲み上げられなくなってくるので、ヒーターとのCOP差は縮小していきます。

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ヒートポンプサイクルとヒーターの消費電力を比較

最後に、簡易的なバッテリモデルを作ってヒートポンプサイクルとヒーターで消費電力がどのくらい変わるのかを考えます。

図3:バッテリ簡易モデル

図3は簡易的なバッテリと負荷が接続されたモデルです。バッテリには負荷\(P[\mathrm{W}]\)が掛かっていて、これがヒーターとヒートポンプサイクルのコンプレッサ動力に対応しています。バッテリからの持ち出し電流\(I[\mathrm{A}]\)は負荷\(P\)とバッテリ電圧\(U\)から$$I=\frac{P}{U}$$と求まります。

さらに、バッテリ残量\(SOC[-]\)は$$\frac{d(SOC)}{dt}=\frac{I}{C_p}$$$$SOC=\int\frac{I}{C_p}dt+SOC_{ini}$$となります。ここで、\(C_p[\mathrm{Ah}]\)は電池容量、\(SOC[-]\)はState of Chargeの略でバッテリの残量を表します。

ヒートポンプサイクルの場合

ヒートポンプの\(COP\)を\(COP_{HP}\)とすると、コンプレッサの消費電力\(P_{HP}[\mathrm{W}]\)は$$P_{HP}=\frac{Q_{HP}}{COP_{HP}}$$となります。ここで、\(Q_{HP}[\mathrm{W}]\)はヒートポンプサイクルの暖房能力です。

したがって、ヒートポンプサイクルのコンプレッサが消費する電流\(I_{HP}[\mathrm{A}]\)は$$I_{HP}=\frac{1}{COP_{HP}}\cdot\frac{Q_{HP}}{U}$$

ヒーターの場合

ヒーターの場合もヒートポンプサイクルと同じ要領で計算できます。ヒーターが消費する電流\(I_{Heater}[\mathrm{A}]\)は$$I_{Heater}=\frac{1}{COP_{Heater}}\cdot\frac{Q_{Heater}}{U}$$となります。\(Q_{Heater}[\mathrm{W}]\)はヒーターの暖房能力、\(COP_{Heater}[\mathrm{-}]\)はヒーターの\(COP\)です。

ヒートポンプサイクルとヒーターの消費電力を比較

ヒートポンプサイクルとヒーターの消費電力を比較します。比較を簡単にするために両方の暖房能力を同じ\(Q_{HP}=Q_{Heater}=Q\)とします。すると$$I_{HP}=\frac{1}{COP_{HP}}\cdot\frac{Q}{U}$$$$I_{Heater}=\frac{1}{COP_{Heater}}\cdot\frac{Q}{U}$$と書けます。両辺を割ると$$I_{HP}=\frac{COP_{Heater}}{COP_{HP}}\cdot I_{Heater}$$したがって、ヒートポンプサイクルの\(COP\)が高くなればなるほど、同じ暖房能力を出すための消費電流がヒーターよりも減少することが示せました。

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まとめ

ヒートポンプサイクルとヒーターで比較

COPに着目して、ヒートポンプサイクルとヒーターの差の理由について解説しました。要旨を以下にまとめます。

• ヒートポンプサイクルは外気から動力を使わず、エバポレータから熱エネルギーを汲み上げられるのでCOP>1となり、電気自動車の航続距離を延ばすことができる

• 外気温度が高いほど、外から汲み上げられる熱量が増加するためCOPは高くなり、外気温度が低いほど、COPは低くなる傾向がある

• ヒーターは電気エネルギーを熱エネルギーに変換しているだけなのでCOP≦1であり、ヒートポンプサイクルより航続距離は短くなってしまう

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