自動車業界ではモデルベース開発(MBD)が当たり前になっている
自動車業界では、モデルベース開発(MBD)が当たり前になっています。
これまでのエンジン車(ガソリンエンジン・ディーゼルエンジン)はもちろんですが、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)や水素自動車(FCV)などの環境に優しい自動車にもモデルベース開発が適用されています。


モデルベース開発ってどんな開発プロセス?
ところで、モデルベース開発とはどのような開発プロセスのことでしょうか?
モデルベースとは、実機計測をする代わりにシミュレーションでシステム設計をしたり、部品設計をしたりする開発プロセスのことを指します。
実機計測の場合は、試作品を作らないと計測することができないので、非常にコストも時間も掛かってしまいます。
一方、モデルベース開発の場合は、シミュレーションで代用するのでモノがない段階から仮想の試作機を使って検討が進められるわけです。
モデルベース開発は実機開発より常に優れているのか?
では、モデルベース開発は常に実機計測をベースにした開発よりも優れているのでしょうか?
その答えは、”NO”です!モデルベース開発にももちろん不向きな開発領域があります。
ここからは、モデルベース開発が向いている領域と不向きな領域について解説していきます。
モデルベース開発が向いている領域
これまでの実機計測データが蓄積されている領域
実機計測データが長年蓄積されている領域は、モデルベース開発に置き換えやすいです。
例えば、自動車メーカーであればエンジンは内製していますよね?つまり、これまでの膨大なエンジンの計測データが蓄積されているわけです。
このような領域は計測データから、エンジンの物理特性を明らかにしやすいのでモデルベース開発に向いています。
ただし、後述しますが、エンジンのシリンダー内部の燃料現象は非常にモデルベース開発が難しい分野です。
線形特性が強い領域
線形特性が強い領域もモデルベース開発が適用しやすい領域になります。
ある程度線形特性で近似ができれば、単回帰分析や重回帰分析などでモデル化ができるので、モデルベース開発が使いやすいです。
モデルベース開発が不向きな領域
ここからは、モデルベース開発が不向きな領域について紹介します。
化学反応が絡む領域(エンジンの燃焼領域や電池の化学反応)
1つ目は、化学反応が絡む領域です。
具体的には、エンジンのシリンダー内部の燃焼(ガソリン・ディーゼルと酸素の化学反応)や電気自動車のバッテリの化学反応などが該当します。
化学反応は非常にミクロな現象であり、その物理・化学現象をモデル化することは難しいです。
計測が難しい領域(光学領域)
2つ目は、光学領域などの計測が難しい領域です。
現在は、コンピュータ・ビジョン分野の開発がホットになっています。コンピュータ・ビジョンとは、機械に人間と同様の視覚機能を付与して、これまで人間が行ってきた検査工程などを機械で自動化しようとする開発です。
しかし、この光学領域はモデルベース開発が非常に難しいです。その理由は、今見ている光がどこからやってきたのかを追うことが非常に困難だからです。
光は波の特性を持っており、光源から出た光が直接目の網膜に届くケースもあれば、何かの物体に当たった光が反射して目に届くケースもあります。
このように、光は直接光と間接光とを切り分けることが非常に難しいのです。
人の感性に関わる領域
3つ目は、人の感性に関わる領域です。
具体的には、車の乗り心地やシートの座り心地のように、人が実際に運転したり座ったりして初めて評価できるものです。
これはシミュレーションに置き換えることは難しいです。まず、人によってばらつきが非常に大きいです。子供と大人、男性と女性、アジア人と欧米人。このように評価する人によって、感性はまったく異なるのです。
このように、人によって結果が大きくばらつく評価はモデルベース開発が難しい領域になります。
非線形性が強い領域
4つ目は、非線形特性が強い領域です。
自動車工学の中で、非線形特性が強い領域の代表格が「タイヤ」です。
タイヤの摩擦特性などの物理特性は非常に非線形特性が強く、数式でモデリングすることが非常に難しいとされています。
自動車の運動特性(直進安定性、カーブの曲がり方、乗り心地など)の分野は、タイヤの強い非線形特性と人の感性に依存する部分が多いことが原因で、モデルベース開発が不向きな領域です。
モデルベース開発が不向きな領域4選
最後に、自動車開発において、モデルベース開発が不向きな領域4つを以下にまとめます。
- 化学反応が絡む領域(エンジンの燃焼領域や電池の化学反応)
- 計測が難しい領域(光学領域)
- 人の感性に関わる領域
- 非線形性が強い領域
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