【自動車工学】空調におけるモリエル線図の理論と実際の違い

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実際の冷凍サイクル・ヒートポンプサイクルでは様々な損失が生じるため、理想的なサイクルとは異なるサイクルになります。モリエル線図を用いて理論サイクルと実サイクルの違いとそれらの原因について説明していきます。モリエル線図の見方は以下の記事で解説しています。

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理論サイクルと実サイクルの違い

図1:理論サイクルと実サイクルのモリエル線図の違い

図1は、理論サイクルと実際サイクルのモリエル線図を示しています。黒色の点線が理論サイクル、赤色の実線が実サイクルになります。この2つのサイクルを見比べると、実サイクルは理論サイクルと大きく異なっていることがわかります。

主な違いは5つあり、図1に対応する箇所に番号を振っています。以下で、それら5つの違いについて詳細を解説します。

①コンプレッサ吸入時の圧力損失

1つ目は、コンプレッサ吸入時の圧力損失です。エバポレータで蒸発した冷媒は、次にコンプレッサに吸入されますが、実際はコンプレッサ内の細い配管を通過するときに大きな圧力損失が発生します。圧力損失\(\Delta P[\mathrm{Pa}]\)は$$\Delta P=\lambda\cdot\frac{L}{D}\cdot\frac{\rho\cdot v^2}{2}$$で計算されます。ここで、\(\lambda[-]\)は圧力損失係数、\(L[\mathrm{m}]\)は配管長、\(D[\mathrm{m}]\)は配管径、\(\rho[\mathrm{kg/m^3}]\)は冷媒密度、\(v[\mathrm{m/s}]\)は冷媒流速です。圧力損失係数は、配管の形状によって決定されます。

この式から、配管径が細くなれば圧力損失が増加することがわかります。さらに、配管径が細くなれば流速も増加するので、両方の影響で圧力損失が増加します。冷媒流量を\(Q[\mathrm{m^3/s}]\)、配管の通過断面積を\(A[\mathrm{m^2}]\)とすると$$v=\frac{Q}{A}$$となるので、流速も上がってしまうのです。

さらに、吸入圧力が低下すると、冷媒密度も低下してしまいます。その結果、コンプレッサの吐出流量の低下を招きます。詳細な計算式は以下の記事で解説しています。

②コンプレッサ圧縮時のポリトロープ変化

2つ目は、理論サイクルではコンプレッサは理想的な断熱圧縮を仮定していますが、実サイクルは様々な損失が発生するため、ポリトロープ圧縮となり圧縮後のエントロピーが増大します。ポリトロープ圧縮の詳細については以下の記事で解説をしています。

③コンプレッサ吐出時の圧力損失

3つ目は、コンプレッサ吐出時の圧力損失です。こちらは①のコンプレッサ吸入時の圧力損失と同じ原理です。吐出された冷媒が細い配管を通過するときに大きな圧力損失が発生してしまいます。

④コンデンサ内の圧力損失

4つ目は、冷媒がコンデンサ内を通過しているときに発生する圧力損失です。コンデンサは冷媒の流路が何重にも折り返されているので、圧力損失係数\(\lambda\)が大きくなります

一方、熱伝達率は実験的に流速の冪乗に比例することが知られています。熱伝達率を\(h[\mathrm{W/K/m^2}]\)、冪乗の係数を\(\alpha[\mathrm{-}]\)とすると$$h\propto v^\alpha$$という関係性があります。

ここで、コンデンサの熱伝達率と圧力損失のシミュレーションをしてみましょう。パラメータは\(\lambda=1.0\)、\(L=1.0\)、\(D=1.0\)、\(\rho=1.0\)、\(\alpha=0.5\)と設計しました。

図2:圧力損失と熱伝達率の関係

図2から、圧力損失と熱伝達率はトレードオフの関係にあることがわかります。トレードオフの関係とは一方を大きすれば、もう片方が小さくなるというシーソーのような関係のことを指します。したがって、コンデンサ放熱量を大きくするためには流速は上げたい、圧力損失を抑えるためには流速を下げたいという関係が成り立ちます。この圧力損失と熱伝達率の2つを上手に最適化させることがコンデンサ設計において重要な要素になります。

⑤エバポレータ内の圧力損失

5つ目は、冷媒がエバポレータ内を通過するときに発生する圧力損失です。これは④のコンデンサとまったく共通の考え方が適用できます。エバポレータも圧力損失と熱伝達率はトレードオフの関係になります。

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