PFAS規制でカーエアコンが自然冷媒に移行?CO2、アンモニア、プロパンの特徴を解説!

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自動車工学
PFAS Regulation
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1. 欧州PFAS規制により自然冷媒が注目されている

欧州PFAS規制とは?

「PFAS規制」は、2023年3月に欧州化学品庁(ECHA)から提案されました。PFASとは、パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の略称のことであり、簡単に説明すると「フッ素化合物」に対する規制です。

フッ素化合物を規制する理由としては、人体への悪影響と環境への悪影響としています。

カーエアコン用冷媒が規制の対象に

このPFAS規制によって、自動車産業にも大きな影響が出るとされています。自動車の中で最もよく使用されているフッ素化合物と言えばカーエアコンに使用されている「冷媒」です。

もちろん今回のPFAS規制には、カーエアコン用冷媒も規制対象に入っており、R-134aやR-1234yfのようなフッ素系の冷媒から自然冷媒への移行が求められます。18ヶ月間の移行期間があり、さらに例外的に追加猶予期間として5年または12年が設けられています。

また、環境問題がクローズアップされる現代では、フロンガスの使用が問題視されています。フロンガスはオゾン層を破壊するだけでなく、温室効果ガスとしても問題です。

このような背景から、環境に優しい自然冷媒の使用が推進されています。

機械式コンプレッサと電動コンプレッサで猶予期間が異なる

「機械式コンプレッサーを備えた内燃機関車両の移動式空調システムで使用される冷媒」については、5年間の猶予期間が定められています。

一方、電気自動車や水素自動車のような電動車両の空調システムには猶予期間が設定されておらず、こちらについては18ヶ月間での移行が求められています。

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2. 自然冷媒とは?

自然冷媒とはフッ素を含まない自然界に存在する物質

自然冷媒とは、元々自然界に存在する物質を冷媒として利用しています。

主なものとしては、CO2(二酸化炭素)、アンモニア、プロパンなどがあります。これらはオゾン層の破壊や温暖化の原因となるフロンガスとは異なり、環境への影響が非常に小さいのが特徴です。

自然冷媒のメリット

1. 高い熱伝導性

自然冷媒は、特定の条件下で非常に高い熱伝導性を持っています。例えば、CO2(二酸化炭素)はクリティカルポイントを超えたときに、超臨界となり、熱伝導性が増大します。これにより、システム全体の冷却・加熱効率が向上する可能性があります。

2. 熱交換器のコンパクト化

自然冷媒の物理的・熱的性質を考慮すると、従来よりも小型の熱交換器で効率的な熱交換が実現可能です。これは、設備の省スペース化やコスト削減に貢献します。

3. 圧縮効率の向上

特にCO2は、高圧縮比での効率が良いことが知られています。これにより、圧縮機の効率が向上し、エネルギーの消費量を削減できる可能性があります。

4. 安定した化学性

多くの自然冷媒は化学的に安定しており、システム内での分解や変質が少ないです。これにより、設備の寿命が延びるとともに、メンテナンスの頻度やコストが削減されることが期待されます。

5. 環境適応力の拡大

自然冷媒は、様々な気候や温度条件下でも効果的に動作する特性を持っています。これにより、特定の地域や環境に限らず、幅広い範囲での利用が可能となります。

自然冷媒のデメリット

1. 高い作動圧力

CO2(二酸化炭素)を例に取ると、一般的なフロン冷媒と比較して、作動圧力が高くなる傾向があります。この高圧下での動作は、圧縮機や配管の強度を考慮する必要があり、それに伴い設計や材料のコストが増加する可能性があります。

2. 毒性や引火性の問題

アンモニアは冷媒としての性能は優れていますが、吸入すると有害であり、高濃度では有毒です。また、プロパンは引火性を持つため、漏洩時の安全対策が必要です。

3. システムの設計変更

自然冷媒の特性を最大限に活かすためには、従来のフロン系冷媒を使用していたシステムの大幅な設計変更が求められることが多いです。これにより、初期導入の際のコストや時間が増加するリスクがあります。

4. 限られた適用範囲

一部の自然冷媒は、特定の温度や圧力範囲でのみ効果的に動作するため、その適用範囲が限定的になることがあります。これは、システムの用途や場所によっては採用が難しい場合があることを意味します。

5. 専門的な知識や技術が求められる

自然冷媒の取り扱いやシステムの設計・運用には、従来のフロン系冷媒とは異なる専門的な知識や技術が求められることが多いです。これにより、熟練した技術者や研修が必要となる場合があります。

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3. 自然冷媒の種類別の特徴(二酸化炭素、アンモニア、プロパン)

ここからはカーエアコンに自然冷媒を適用したときの特徴を解説していきます。

今回紹介するのは、カーエアコン冷媒としてメジャーな二酸化炭素(CO2)、アンモニア(NH3)、プロパンの3種類です。

二酸化炭素(CO2)冷媒の特徴

二酸化炭素(CO2)冷媒のメリット

CO2冷媒のメリットは大きく2点あります。

1点目は、無臭で可燃性がなく安全に使用できる点です。後述しますが、アンモニアやプロパンには可燃性があるため取り扱いには注意が必要です。

2点目は、従来のフッ素系の冷媒よりも潜熱量が大きく、冷房能力・暖房能力のポテンシャルが高いという点です。

潜熱量とは、CO2が気体から液体に状態変化(凝縮)するときや液体から気体に状態変化(蒸発)するときに必要なエネルギー量のことです。その潜熱量が大きいということはそれだけ熱を蓄熱または吸熱できるということになります。

CO2冷媒の潜熱量の大きさはエアコンに使用するにあたって非常に大きなメリットになります。

二酸化炭素(CO2)冷媒のデメリット

CO2冷媒のデメリットは運転圧力がフッ素系冷媒と比較して非常に大きいことです。一般的なフッ素系冷媒の場合は、1.0MPa〜2.0MPaの間で運転することが多いですが、CO2冷媒になると10MPa以上の圧力まで上がります

圧力の運転範囲が変わると冷凍サイクルを構成している部品(コンプレッサ、コンデンサ、エキスパンションバルブ、エバポレータ、配管など)はすべて設計変更が必要になります。

特に、コンプレッサはより高い圧力まで耐えられるように再設計しなければなりませんし、コンプレッサ自身のサイズも大きくなってしまいます

結果的に、コンプレッサの騒音が大きくなったり、搭載性が悪くなったりすることによって、車両レイアウトが難しくなります

また、配管も高圧に耐えられる仕様にするために、肉厚を増やしたりすることにより、コストや重量がアップしてしまいます。

アンモニア(NH3)冷媒の特徴

NH3冷媒の特徴は、①特有の刺激臭がある、②有毒性がある、③可燃性があるということです。

これらはカーエアコンの冷媒として使用するときには注意が必要です。

自動車開発というのは、万が一に衝突事故が起こったときのケースを考えて開発しなければなりません。もしも、交通事故が起こってエアコン配管やホースが破れて、封入されている冷媒ガスが外に出たら二次災害につながる恐れがあります。

有毒なアンモニアガスを吸ったり、引火して火事になったりする危険性があるため、カーエアコン冷媒として採用されるというのは難しいです。

プロパン冷媒の特徴

プロパン冷媒の特徴はアンモニア冷媒と非常によく似ています。

プロパンは本来無臭のガスですが、アンモニアと同様に可燃性を持っていることが自動車への採用を難しくしています

やはりプロパンも万が一交通事故が起きてしまったときのガス漏れリスクが付きまといます。

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4. まとめ

今回は、欧州から2023年3月に発表されたフッ素化合物に対する規制、「PFAS規制」によって、自動車開発にどのような影響が出るのかについて解説をしました。

自動車開発にとって最も大きな影響を受けるのは、フッ素系冷媒を使用しているカーエアコン領域になります。従来のR-134aやR-1234yfから自然冷媒に移行を求められる可能性があります。

自動車用エアコンで使用されるメジャーな自然冷媒は二酸化炭素(CO2)、アンモニア、プロパンなどがありますが、可燃性や有毒性の懸念から有力候補は二酸化炭素になると考えています。

しかし、CO2冷媒は運転圧力がフッ素系冷媒より約10倍も高いため、部品の設計変更や騒音などもデメリットもたくさんあります。

したがって、今後のカーエアコン開発は「PFAS規制」に振り回される形で、非常に困難を極めていきます。

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