テスラの強みはバッテリ冷却構造とオクトバルブ!EVの弱点のバッテリ劣化を熱マネジメントで防ぐ

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テスラが電気自動車界の王者に君臨する理由

テスラだけが世界でEVの値下げに踏み切っている

インフレによる原材料費の高騰で、各自動車メーカーが車両本体価格の値上げをしている中、テスラだけは値下げに踏み切っています。

これまでは日本や中国で値下げを実施してきましたが、それをアメリカやヨーロッパにも拡大し、世界中で車両の値引きに踏み切りました。

また、その値引き額ですが、アメリカではミドルクラスのセダンである「モデル3」を6〜14%、SUVである「モデルY」は20%という非常に大きな値引きです。

EVの覇権争いが激化する中、価格競争力を高めるためにテスラは値引きに舵を切っているようです。

電気自動車のメーカー別販売台数1位

米国のテスラは2021年の電気自動車のメーカー別販売台数で93万台を売り上げ、2位の中国のBYDの59万台を大きく引き離しています。

テスラの好調は、半導体不足により減産を余儀無くされている他の自動車メーカーを尻目に2022年も続いています。テスラが電気自動車業界を独走しているのは、それ相応の理由があります。

今回の記事では、テスラだけが持っている固有の技術について説明をしていきます。テスラが持つ強みは、①革新的なバッテリ冷却システム②複数機能が統合されたオクトバルブによる車両全体の熱マネジメントです。

テスラの強みはEVの最大の弱点であるバッテリ劣化を抑制できている点

テスラの他社の追随を許さない競争力はいったいどこから生まれているのでしょうか?

その理由は、テスラのバッテリは他メーカーのバッテリよりも非常に劣化しにくいという極めて重要な特徴を持っているからです。

電気自動車においてバッテリの劣化問題は最重要課題であり、その開発力がダイレクトに競争力に直結していきます。バッテリの劣化が激しい電気自動車のリセールバリューはすぐに低下し、一度購入した顧客は二度とそのメーカーのEVを購入することはないでしょう。

一方、劣化を抑えられれば、乗り換えるときに高い値段で売れる→次もテスラのEVを購入したくなるというようなプラスの循環が生まれ、企業のブランド価値も上がっていきます。

テスラのバッテリが劣化しにくい理由は、バッテリの熱をコントロールする技術が他社を圧倒しているからです。バッテリは低温や高温の状態が続くと劣化しやすくなるため、テスラは最も劣化が進みにくい適切な温度にバッテリ温度をコントロールしているのです。

それを実現するためにテスラは、①バッテリ冷却構造と②オクトバルブによる熱の統合制御という2つの画期的な技術を有しています。それでは、以下でそれらの2つの技術について詳細を説明します。

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テスラってどんな会社?

テスラ(Tesla, Inc.)は、アメリカ合衆国の自動車メーカーで、電気自動車を中心に製造・販売を行っています。テスラは、イーロン・マスクが2003年に創業し、シリコンバレーに本社を置いています。

テスラの特徴は、電気自動車の製造・販売に特化していることです。テスラは、従来の自動車メーカーとは異なり、独自の技術や設計を駆使して、高性能で、長距離走行が可能な電気自動車を製造しています。

また、テスラは、自動運転技術の開発にも注力しており、自社開発のセンサーやソフトウェアを使用した自動運転システムを提供しています。

テスラは、その技術やデザインなどが高く評価され、世界中でファンを持つブランドになっています。

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テスラの強み①:バッテリ冷却構造が画期的で冷却性能が高い

テスラは円筒形状のバッテリを採用

まず1つ目は、バッテリの冷却構造が画期的だという点です。

一般的に、電気自動車に搭載されるバッテリは四角い箱型のバッテリが採用されていますが、テスラはパナソニックから供給される円筒形状の一見変わった形のバッテリを採用しています。これがテスラの競争力を維持している肝の部分になります。

円筒形状のバッテリの場合、隣り合うセルの間に隙間が出来てしまうため、スペースの無駄が発生してしまうというデメリットがあります。

しかし、テスラはその隙間に冷却水を流すという冷却システムを採用しており、円筒型セルのデメリットをメリットに変えています

熱交換面積を大きくして冷却能力アップ

セルの間に冷却水を流すことの最大のメリットは、冷却部の表面積を大きく取ることができるという点です。

一般的な角型のセルの場合、バッテリの底面や側面にしか冷却水を流すことができないため、バッテリの中心に近い部分の温度がどうしても上がりやすくなってしまいます。

一方、円筒型セルの場合は、セル間の隙間をウォータージャケットとして利用することにより、バッテリをより均一に冷却することができます。

テスラのバッテリ冷却構造の断面図

冷却能力\(Q\)の大小は、熱伝達率×表面積×冷却水と対象との温度差の積で決まります。$$Q=k\cdot A\cdot (T_{lib}-T_{llc})$$

ここで、\(k\)は熱伝達率、\(A\)は冷却部の表面積、\(T_{lib}\)はバッテリ温度、\(T_{llc}\)は冷却水温度です。

一般的に、熱伝達率\(k\)は冷却水の流量(≒流速)の関数として決まります。つまり、冷却水の流量が多いほど熱伝達率も上がる傾向にあります。

表面積とは、冷却水とバッテリが接する面積のことです。テスラはこの表面積を他社よりも大きく取ることにより、大きな冷却能力を得ています

バッテリ温度を均一に冷却する効果もある

テスラのバッテリ冷却構造は冷却能力が大きくなることに加えて、バッテリの温度ムラを抑えることにも寄与しています。

一般的に、EVのバッテリは均一に冷却できることが望ましいとされています。バッテリ内部に温度ムラが発生すると、それが原因でバッテリの劣化が進んでしまいます。

テスラのようにバッテリ内部に冷却水を流すことによって、均一に冷却することができます。テスラ以外のEVメーカーはバッテリの底面に冷却水や冷媒を流す方式を採用しています。

しかし、バッテリの底面から冷却をしましまうと、上面と下面の間に必ず温度ムラができてしまいます。この課題をクリアしていることもテスラの強みの1つです。

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テスラの強み②:オクトバルブで車内の熱マネジメントを統合制御

1つの部品に機能を統合してコストダウン

2つ目は、オクトバルブで車内の熱を統合制御できるという点です。

オクトバルブとは、名前の通り1つの部品の中に8個の流路を持つ流量切り替えバルブのことです。様々なモードに応じて流路が切り替わり、冷却水の流れる方向を変えられます。

これまでは1つの部品に1つの機能を持たせるのが普通でした。例えば、冷却回路で説明すると1つのバルブで1箇所の流路を切り替えます。つまり、切り替えの数だけバルブを用意しなければなりません。しかし、オクトバルブは1つの部品に8個の切り替え機能を統合した画期的な部品になります。

オクトバルブの先には、バッテリ、モータ、ECU、ラジエータ、水冷コンデンサ(エアコン用の熱交換器)などの部品が接続されており、運転条件や環境条件に応じてオクトバルブがバッテリ冷却、モータ・ECU冷却、ラジエータ放熱、エアコンの性能をすべて制御しています。

オクトバルブは暖機12モード+冷却3モードの合計15モードを流路を切り替える

テスラのオクトバルブは、暖機で12モード、冷却で3モードの合計15モードを1つの部品で切り替える機能を持っています。このように、モードを外気温度、バッテリ温度、アクセル開度、エアコンのON/OFFなどの様々な状態量を用いて、非常に細かく制御しています。

その結果、バッテリ、モーター、インバーターの熱マネジメントや空調による快適性などを同時に満足させる協調制御ができるのです。

つまり、テスラはこのオクトバルブという1つの部品に多くの機能を統合することにより、コストダウンを図っているのです。

オクトバルブはバッテリの熱コントロールにも寄与

オクトバルブのメリットは、コストダウンだけではありません。

肝心のバッテリの熱コントロールにおいてもメリットを発揮します。例えば、バッテリを冷却したい場合は、最も冷却水の温度が下げるモードでオクトバルブが動作し、バッテリを冷却します。

一方、冬場にバッテリを早く温めたいときには、モータやECUなどの他の部品を熱を冷却水に乗せて、バッテリに移動させます。そうすることで、車両全体を熱を上手に足りないところに運び、効率的に熱のコントロールができるのです。

機能統合のデメリットは故障による影響が大きくなる

部品の機能統合はメリットばかりではありません。デメリットも存在します。

オクトバルブのデメリットは、多くの機能を統合しているため故障すると様々な領域に影響が出ることです。今回の場合では、オクトバルブが故障すればバッテリ、モータ、ECU、エアコンのすべてに影響が波及してしまいます。

したがって、機能統合部品を採用する際には、その部品の品質が非常に重要になってきます。

テスラのギガプレスとは、自動車部品の製造に使われる大型ダイカストマシンのことを指します。このマシンはイタリアのIDRAという会社から供給されており、その能力は他の伝統的なダイカストマシンよりも遥かに大きいです。詳細について解説します。

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テスラの強み③:ギガプレスで製造コストを大幅ダウン

技術的詳細

ギガプレスは、より大きな部品を一度に成形する能力があります。通常、自動車のシャーシやフレームなどは数多くの小さな部品から組み立てられますが、ギガプレスを使用すると、これらの部品を一つの大きな部品として製造することができます。

このマシンは5800トンの圧力を発生させ、アルミニウム合金を一つの大きな金型に注入します。その結果、一つの部品として形成される自動車のフレームやシャーシ部分は、それを構成するための複数の小さな部品を溶接や接着で組み立てる必要がなくなります。

ギガプレスのメリット

  1. 生産効率の向上: ギガプレスを使用すると、一つの大きな部品を一度に成形することができます。これにより、組み立てラインでの時間と労力が大幅に削減されます。
  2. 品質の向上: 少数の大きな部品からなるシャーシやフレームは、多数の小さな部品を接合したものよりも一貫性と強度があります。
  3. コスト削減: 少ない部品を使用することで、部品の調達、保管、運搬などのコストを削減できます。

ギガプレスのデメリット

  1. 初期投資コスト: ギガプレス自体の購入および設置には大きなコストがかかります。
  2. フレキシビリティの低下: シャーシやフレームを一つの大きな部品として作成すると、製品の設計変更が困難になります。そのため、長期間にわたって製品設計を変更しない意図がある場合にのみ、ギガプレスが有効です。
  3. 故障の影響: 一つの大きなマシンに依存すると、マシンが故障した場合の影響が大きくなります。これにより、生産ラインが停止するリスクが増大します。

以上がテスラのギガプレスについての技術的詳細とそのメリット、デメリットです。

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まとめ

今回の記事の内容を以下に要約します。

  • テスラが電気自動車界で圧倒的な競争力を持っており、売り上げ台数を世界1位
  • その競争力の源泉は、バッテリの劣化の進みにくさ
  • それを実現しているのが、①バッテリ冷却構造と②オクトバルブによる統合制御
  • 円筒型セルで冷却面積を大きく取り、熱コントロールをしやすくしている
  • オクトバルブに機能を集約させ、統合制御&コストダウンを図っている
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