トヨタがEV戦略の見直しを決めた
トヨタ自動車は電気自動車(EV)の戦略を練り直すことを発表しました。
もともと2030年までに30種類のEVをラインナップするという計画でしたが、その計画もいったん白紙に戻すようです。
理由は、より競争力の高いEVを開発する必要性が出てきたというのがトヨタからのコメントでありました。
では、なぜトヨタはそのような戦略変更を強いられたのでしょうか?
背景にはEV界をリードするテスラとBYDの存在
EVは儲からないビジネス
その背景には、EV界をリードしている「テスラ」の存在が非常に大きいです。トヨタはこのままのEV開発プロセスではテスラに太刀打ちできなくなるという危機感を感じているのでしょう。
世界中の自動車メーカーにとってEVは製造コストがネックになり、まだまだ従来のエンジン車やハイブリッド車のようなビジネスにはなっていません。要はEVは売っても儲からないのです。
テスラは独自の技術で利益を上げる
しかし、テスラだけは違います。テスラはEV専業の自動車メーカーにも関わらず、大きな利益を上げています。
この理由は、テスラの製造面でのコスト競争力はもちろんですが、EVの命とも言えるリチウムイオンバッテリの劣化を防ぐ冷却構造や車内の熱を少しも無駄にせず有効活用するためのサーマルマネジメント技術(オクトバルブ)という性能面の競争力も持ち合わせているのです。
トヨタはこれらの高い技術力を持ったテスラに追い付くためには、これまでの延長線上で考えていては絶対に勝てないと判断したのでしょう。
BYDは低コストのバッテリを武器に急激に売り上げを伸ばす
中国のバッテリメーカー兼自動車メーカーであるBYDは、急激にEVのシェアを拡大させています。
元々はバッテリメーカーでしたが、2003年に中国の国営自動車メーカーを買収し、自動車業界に進出した新興メーカーです。
自前で開発した低コストのバッテリを搭載したEVがヒットし、今では世界1位のテスラに次ぐ世界2位のEVメーカーです。
BYDの「ATTO3」は日本国内でも販売
BYDが開発した電気自動車のSUVモデルである「ATTO3」は日本国内でも販売されます。
電池容量は58.56kWh、航続距離は485km(WLTC自社調べ)であり、日産リーフe+と近いスペックとなっています。
値段は440万円で、サブスクで利用するなら月額4万4440円で利用できるため、トヨタが発売している「bZ4X」の強力なライバルになることは必至です。
トヨタの新型EVであるbZ4XはKINTOによるサブスクのみの利用
サブスクリプションサービスで月額8万8820円
トヨタは新型のEVである「bZ4X」を発売していますが、個人向けサブスクリプションサービスである「KINTO」での利用に限定しています。
しかも月額使用料は8万8220円とかなり高額な印象です。現在では、日産、テスラ、アウディ、BMW、メルセデス・ベンツから中型のEVが普通に売られていることを考えると、トヨタはやはりEV化の波に遅れを取っているのではないでしょうか。
バッテリ冷却方式は水冷方式を採用してコストと冷却性能をバランス
EVの最重要課題であるバッテリの劣化問題についてです。
bZ4Xのバッテリ冷却方式は水冷方式を採用しています。デンソーの冷却システムが採用されています。水冷方式は空冷方式よりも冷却性能は大きくなりますが、外気温度以下には冷却できないという物理的な制約があります。
したがって、夏場の外気温度が高い条件下で急速充電のようなシーンでは、バッテリ冷却能力に不安がありますね。
暖房はヒートポンプサイクルを採用して電費性能を重視
暖房に関しては、PTCヒーターではなくヒートポンプサイクルを採用しています。
これはCOPが大きくなるため、暖房使用時の電費性能を優先した形です。しかし、ヒートポンプサイクルはコストが高いので、これも月額使用料が高い理由の1つでしょう。
プラットフォーム(車台)の設計変更に着手する
プラットフォーム開発は莫大なコストと期間が掛かる
トヨタはテスラに追いつき、追い抜くためにEV専用に開発されたプラットフォーム「e-TNGA」の設計の見直しも視野に入れるようです。
自動車開発において、プラットフォーム(車台)の開発というのは莫大な開発コストと開発期間が必要になります。そのプラットフォームの設計を見直すというのはトヨタの本気度が伺えます。
設計の共通化はコストは下がるが制約も増える
「e-TNGA」は従来のガソリン車やハイブリッド車と同じ生産ラインで組み立てられるように設計されています。それはコストを下げるために非常に重要なことです。「e-TNGA」だけが別の専用ラインでしか製造できないとなれば、そのコストはさらに跳ね上がってしまうからです。
しかし、製造ラインを共通化するということはデメリットも存在します。それは設計の制約が非常に多く課せられてしまうことです。
EVにとって最適な設計ができればベストですが、エンジン車・ハイブリッド車と同じラインで製造するとなると、ある程度レイアウトや部品を共通化する必要が出てきます。そうなれば、どうしてもコストは下げられるが同時に性能も落ちてしまうというトレードオフにハマってしまいます。
一方、テスラはEV専業メーカーなので、EVに最も最適なプラットフォームを設計できるのです。その差が企業の競争力にダイレクトに反映されているでしょう。トヨタはこれからテスラのようにEV専用の製造ラインでEVに最も最適化されたプラットフォームを開発してくるのかもしれませんよ。
EVの競争力を左右する3つの要素技術
最後に、EVの競争力を左右する3つの要素技術について解説をします。
EVのパワートレインとなる「e-Axle」
まず1つ目は、EVのパワートレインである「e-Axle」である。「e-Axle」とはインバータ、駆動モータ、減速機が一体化されたコンポーネントのこと指します。
インバータはバッテリの直流電流を交流電流に変換、駆動モータはトルクを発生させて電気エネルギーから運動エネルギーに変換、減速機はトルクを増幅させてタイヤに伝達する機能を持っています。
これらが一体化された「e-Axle]の小型化かつ高効率化がEVの競争力を上げる上で非常に重要になります。小型化できれば小型車への搭載が可能になり、またレイアウトの自由度も上がります。
高効率化できれば損失が低減され、より航続距離を延ばすことができます。
熱を制御するサーマルマネジメント
2つ目は、熱を制御するためのサーマルマネジメント技術です。
EVではとにかく熱が足りません。特に冬場は熱が不足し、それが原因で航続距離が著しく低下します。そのため、EVでは貴重な熱を少しでも無駄にしないようなサーマルマネジメント技術が必須になっています。
EVのバッテリは高温や低温に晒されると、内部構造が劣化しやすいという重要な課題があります。したがって、夏場はバッテリを冷却する一方で、冬場はバッテリを暖機(温める)しなければなりません。このようにEVでは、バッテリの温度を常にケアしなければ商品性が落ちてしまうのです。
そこで、テスラは独自技術である「オクトバルブ」という部品を使って、空調・モータ・バッテリ・ECUで発生する熱を熱交換器を介して自由に移動させています。そうすることによって、熱を有効活用して省エネを実現しているのです。
EVのコストの大半を占めるバッテリの調達コスト
バッテリのコストがEV全体のコストの大半を占める
EVの車両本体価格が従来のエンジン車よりも高いのは、バッテリのコストが高いからです。EVのコストの大半を占めているのはバッテリのコストです。
しかし、自動車メーカーはエンジンのようにバッテリを内製していないので、外から調達する必要があります。そこで、各自動車メーカーは安くバッテリを仕入れるための調達ルートの開拓に非常に力を入れています。
バッテリは3元系からリン酸鉄系にシフトしてきている
EVのバッテリの主流である「ニッケル・マンガン・コバルト3元系リチウムイオンバッテリ」はコストが高いというデメリットがあります。
そこで、最近注目されているのが「リン酸鉄リチウムイオンバッテリ」です。
BYDはリン酸鉄系リチウムイオンバッテリを内製し、自社のEVに搭載している
リン酸鉄リチウムイオンバッテリは、安価であり、発火がしにくいという特徴を持っています。このリン酸鉄リチウムイオンバッテリに強みを持つのが「BYD」です。
BYDは、自社で内製したリン酸鉄リチウムイオンバッテリを自社で製造するEVに搭載することによって、EVのコストを下げることに成功しています。
EV専用設計のプラットフォームでなければテスラとBYDに勝てない
今回は、トヨタがEV戦略を見直すというニュースの背景について詳しく解説をしました。
プラットフォームから見直すというコメントを受けて、トヨタのただならぬ危機感と本気度を感じました。
これまでトヨタはハイブリッド車(HEV)と共通のプラットフォームをEVに流用してきました。これは生産コストを抑えるためです。しかし、EV専用のプラットフォームを持つテスラやBYDには、このままでは勝てないと判断したのでしょう。
世界のトヨタと言えども、これからの100年に一度の大変革時代を生き抜いていくことは容易でないと考えているのでしょう。EVで覇権を握ることができるかが、これから生き残れるが決まると言っても過言ではありません。
これからのトヨタのアップデートされたEV戦略に注目していきましょう!
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