可変容量型のコンプレッサを簡易的にモデル化します。これまでコンプレッサに関連する記事を2つ投稿してきましたが、どちらの記事も固定容量型コンプレッサを仮定していました。


詳細な内部構造をモデル化するのではなく、容量を可変させるという機能だけを簡易的にモデル化するため、汎用的な物理モデルが必要なMILS用モデルとしては非常に相性がいいです。
コンプレッサの駆動方式
まず、コンプレッサの駆動方式には①機械駆動と②電動駆動の2つのタイプに区分されます。①の機械駆動式コンプレッサの中に、固定容量型コンプレッサと可変容量型コンプレッサの2種類に分かれます。②の電動駆動式コンプレッサは電動コンプレッサと呼ばれています。

固定容量型と可変容量型の違い
固定容量と可変容量の違いは、コンプレッサのシリンダーの容積が運転中に変化するかどうかという点です。最初に、なぜそもそもコンプレッサのシリンダー容量を変化させる必要があるのかということを説明します。
機械駆動式コンプレッサはエンジンの回転を利用して、コンプレッサを回転させています。エンジンのプーリーとコンプレッサのプーリーとベルトで結合することにより、エンジントルクをコンプレッサに伝達しています。プーリー比を\(n[-]\)とすると、コンプレッサ回転数\(N_c[\mathrm{rpm}]\)は$$N_c=n\cdot N_e$$で計算できます。ここで、\(N_e[\mathrm{rpm}]\)はエンジン回転数です。つまり、機械駆動式コンプレッサの回転数はエンジン回転数の制約を受けるため、自由にコントロールすることができないのです。
固定容量型コンプレッサのデメリット
固定容量型コンプレッサの場合、回転数がコントロールできないのでマグネットクラッチというクラッチ機構が付いています。その機構によって、エンジンからのトルクを伝達したりカットしたりすることにより、冷凍サイクルの冷媒循環量を制御しています。
しかし、クラッチ制御ではON/OFF制御になってしまうため、クラッチを離したり掴んだりする度に冷媒圧力・温度が激しく変動します。結果として、エバポレータに入る冷媒の状態量も激しく変動し、ドライバーは突然吹き出し口から出る空気の温度が温くなったり、冷たくなったりすることに不快感を感じてしまうのです。
可変容量型コンプレッサのメリット
一方、可変容量型コンプレッサではシリンダー容量を変化することができるので、クラッチ制御なしにサイクル中の冷媒循環量を制御することが可能になります。それにより、冷媒圧力・温度は滑らかに変化させることができ、ドライバーの快適性能をより向上させることができるのです。
ちなみに、電動コンプレッサはモータで駆動するので、自由に回転数を制御することができます。したがって、電動コンプレッサに可変容量型は存在しないのです。
可変容量型コンプレッサの簡易モデル化
ここからは簡単な数式を使いながら、可変容量型コンプレッサを簡易モデル化します。
吐出流量の計算
まず、可変容量型コンプレッサの吐出流量\(G[\mathrm{kg/s}]\)は$$G=V_c\cdot Duty\cdot \frac{N_c}{60}\cdot \eta_v\cdot \rho$$で計算できます。ここで、\(V_c[\mathrm{m^3}]\)はシリンダーの最大容積、\(Duty[\mathrm{-}]\)は可変量Duty比、\(N_c[\mathrm{rpm}]\)はコンプレッサ回転数、\(\eta_v[\mathrm{-}]\)は体積効率、\(\rho[\mathrm{kg/m^3}]\)は冷媒密度です。
Duty比が可変容量型コンプレッサで固有のパラメータになります。このDuty比は0〜1までの値を取って、その値に応じてシリンダー容積を変化させています。

図2はDuty比を変化させたときの可変容量型コンプレッサのシリンダー断面のイメージです。Duty比が小さくなるにつれて、ピストンのストローク量が短くなっていきます。
駆動動力の計算
次に、駆動動力\(L[\mathrm{kW}]\)を計算します。\(L\)は冷媒吐出流量\(G[\mathrm{kg/s}]\)と吸入と吐出の比エンタルピー差\(h_{b}-h_{a}[\mathrm{kJ/kg}]\)の積で求まるので$$L=G\cdot(h_{b}-h_{a})$$となります。

ここで、Duty比最大のときの冷媒吐出流量を\(G_{max}\)とすると$$G=G_{max}\cdot Duty$$となります。つまり、$$L=G_{max}\cdot(h_{b}-h_{a})\cdot Duty$$となります。したがって、可変容量型コンプレッサのDuty比が小さくされば、駆動動力\(L\)も低下します。ここだけを捉えると、Duty比を小さくする方が動力が減って燃費性能が上がると思うかもしれません。しかし、冷媒循環量が減少するとコンデンサとエバポレータでの放熱量、吸熱量も低下するので冷暖房性能も併せて低下します。
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