【MBD事例】4つの走行抵抗を考慮したMILS用車両運動物理モデルを作成

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自動車工学
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走行抵抗を考慮した車両プラントモデルの作成方法をお伝えします。走行抵抗は4種類あり、転がり抵抗、空気抵抗、勾配抵抗、加速抵抗が車両に掛かっています。それらの走行抵抗の詳細と走行抵抗が掛かった状態での車両速度の計算方法について解説します。

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自動車はタイヤで回転エネルギーを並進エネルギーに変換

自動車はエンジンから発生したトルクをトランスミッション→デファレンシャルギア→タイヤに伝達させていきます。タイヤまで伝達されたトルク(回転エネルギー)は駆動力(並進エネルギー)にエネルギー変換されます。その駆動力を利用することによって、車両は前後方向に移動することができます。ここで、回転運動から並進運動への変換方法について説明します。

図1:タイヤに加わるトルク(回転)と力(並進)

タイヤに加わるトルク\(\tau[\mathrm{N\cdot m}]\)はタイヤ半径\(R[\mathrm{m}]\)とタイヤの駆動力\(F_{drive}[\mathrm{N}]\)すると、次のように定義されます。$$\tau=R\times F_{drive}$$つまり、駆動力\(F_{drive}\)は$$F=\frac{\tau}{R}$$で計算できます。このように、トルクを回転体の半径で割ることによって力に、つまり回転運動から並進運動へ変換することができます。したがって、タイヤで並進運動に変換した後は、トルクではなく力の釣り合いで考えることができます

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車両には4つの走行抵抗が掛かっている

車両には走行抵抗として、①転がり抵抗②空気抵抗③勾配抵抗④加速抵抗の4つの抵抗が加わります。以下で、それぞれの抵抗の詳細について解説をします。

転がり抵抗

転がり抵抗とは、タイヤが転がるときに形状変形によるエネルギーロスと地面との摩擦によるエネルギーロスを合算したものになります。転がり抵抗を\(F_{roll}[\mathrm{N}]\)とすると、$$F_{roll}=k\cdot M\cdot G$$で計算されます。ここで、\(k[-]\)は転がり抵抗係数、\(M[\mathrm{kg}]\)は車両+乗員の重量、\(G[\mathrm{m/s^2}]\)は重力加速度です。

転がり抵抗はタイヤの種類ごとに決まっています。一般に、燃費性能を重視したエコタイヤはこの転がり抵抗が低くなるように設計されています。一方、サーキット走行を楽しむためのスポーツタイヤはこの係数が高く、燃費は落ちる傾向にあります。

空気抵抗

空気抵抗とは、文字通り車両が空気中を進むときに受ける抵抗です。空気抵抗を\(F_{air}[\mathrm{N}]\)とすると、$$F_{air}=\frac{1}{2}\cdot C_d\cdot\rho\cdot A_{proj}\cdot v^2$$で計算できます。ここで、\(C_d[-]\)は空気抵抗係数、\(\rho[\mathrm{kg/m^3}]\)は空気密度、\(A_{proj}[\mathrm{m^2}]\)は前方投影面積、\(v[\mathrm{m/s}]\)は車両速度です。

空気抵抗係数\(C_d\)は車両のボディ形状で決まるパラメータです。前方投影面積\(A_{proj}\)は車両を正面から見たときの面積です。つまり、バスやトラックのような形状は前方投影面積が非常に大きくなるため空気抵抗を受けやすくなります。逆に、スポーツカーのような形状は前方投影面積が小さくなるため、空気抵抗が減り高速域での加速に伸びがあります。

空気抵抗は低速域ではその影響はほとんど受けません。おおよそですが、80[km/h]以上の高速域になってくると徐々にその影響が出てきます。

勾配抵抗

勾配抵抗とは、車両が勾配の傾きによって受ける抵抗のことです。上り坂であれば抵抗として作用し、下り坂であればアシストとして作用します。この勾配抵抗は簡単な力学モデルで説明をすることができます。

図2:勾配抵抗の力学モデル

図2は勾配抵抗の力学モデルを示しています。勾配\(\theta\)の坂道を自動車が登ろうとしたとき、下に\(MGsin\theta\)の力で引っ張られます。したがって、勾配抵抗\(F_{slope}\)は$$F_{slope}=M\cdot G\cdot sin\theta$$で計算できます。

加速抵抗

加速抵抗とは、慣性力とも言い換えることができます。止まっている物体は止まり続けようとし、動いている物体はその運動を続けようとするのが慣性の法則です。加速抵抗を\(F_{acc}\)とすると、$$F_{acc}=M\cdot a$$で計算されます。ここで、\(M[\mathrm{kg}]\)は車両+乗員の重量、\(a[\mathrm{m/s^2}]\)は車両の加速度です。つまり、重量の大きい車両ほど慣性力が大きくなるため、加速するまでに時間が掛かるのです。

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走行抵抗を考慮した車両速度計算モデル

ここからはいよいよ実際に車両速度を求めるモデルを作っていきます。モデルの詳細度は非常にシンプルな構成して、MILS検証で使いやすいレベルで構築します。

駆動力から走行抵抗を差し引いた正味の駆動力を計算

最後に、上記4つの走行抵抗を考慮して車両の速度を計算したいと思います。まず、タイヤに掛かっている正味の駆動力\(F_{net}[\mathrm{N}]\)は$$F_{net}=F_{drive}-F_{roll}-F_{air}-F_{slope}$$となります。

正味の駆動力から運動方程式を解く

次に、車両+乗員の重量\(M[\mathrm{kg}]\)を正味の駆動力\(F_{net}[\mathrm{N}]\)で割ると、加速抵抗\(F_{acc}[\mathrm{N}]\)を考慮した車両の加速度\(a[\mathrm{m/s^2}]\)が求まります。$$a=\frac{F_{net}}{M}$$これを時間積分すると走行抵抗を考慮した車両速度\(v[\mathrm{m/s}]\)が計算できるのです。$$v=\int adt+v_0$$ここで、\(v_0[\mathrm{m/s}]\)は初速となります。

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