可変バルブ機構(VVT/VVL)の仕組みとメリットをエンジン開発者が解説!

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可変バルブ機構(VVT/VVL)の仕組みが知りたい

エンジン性能を向上させる重要な機能

VVTやVVLの可変バルブ機構はエンジンの燃費性能や耐ノック性能を向上させることのできる重要な機能です。

今回は、可変バルブ機構の仕組みとそのメリットについて解説をしていきます。

エンジン開発の経験がるある現役自動車エンジニアです

私は、現役の自動車開発エンジニアであり、エンジン開発の経験もあります。

吸気バルブや排気バルブの設計を行う動弁系の開発の経験もあるため、その仕組みやメリットを詳しく説明することができます。

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可変バルブ機構は各自動車メーカーのエンジンに採用

トヨタのVALVEMATIC

VALVEMATICの概要

トヨタのVALVEMATIC(バルブマチック)技術は、エンジンの可変バルブタイミング技術 (VVT-i) に加えて、バルブリフト(開口量)とバルブ開時期を電子制御することで、エンジンの効率向上、燃費向上、出力向上、および排出ガス性能の向上を目指す技術です。

VALVEMATICシステムは、以下の主な構成要素を持っています。

  1. 可変バルブタイミング機構 (VVT-i): エンジンの回転速度や負荷状況に応じて、吸気および排気バルブの開閉タイミングを制御する機構です。油圧を用いてカムシャフトの相対角度を変更し、バルブタイミングを最適化します。
  2. 可変バルブリフトおよび開時期機構: エンジンの運転条件に応じて、バルブの開口量(リフト)と開時期を変更する機構です。中間ロッカーアームに設けられた電子制御モーターによって、バルブリフト量と開時期が連続的に可変されます。

VALVEMATICのメリット

VALVEMATICシステムのメリットを以下に記載します。

  1. トルク向上: 低回転域でのバルブリフト量や開時期を最適化することで、吸気効率を向上させ、トルクを向上させます。
  2. 出力向上: 高回転域でバルブリフト量や開時期を大きくすることで、空気の流入量を増やし、出力を向上させます。
  3. 燃費性能の向上: エンジンの負荷や回転数に応じてバルブリフト量や開時期を最適化することで、燃料消費量を抑え、燃費性能を向上させます。
  4. 排出ガス性能の向上: バルブリフト量や開時期の最適化により、燃焼効率が向上し、排出ガスのクリーン化が図られます。

また、VALVEMATICシステムは、従来のスロットルバルブを使わないため、スロットルバルブに起因する損失がなく、エンジンの効率向上にも寄与しています。具体的には、以下のような効果があります。

  1. ポンピングロスの低減: 従来のスロットルバルブによる制御では、バルブが部分的に閉じられているため、吸気過程でのポンピングロス(吸気抵抗による損失)が発生します。VALVEMATICシステムでは、バルブリフト量と開時期を調節することで、エンジンの負荷に応じた適切な空気量を供給し、ポンピングロスを低減します。
  2. アイドリング安定性の向上: 従来のスロットルバルブ制御では、アイドリング時の空気供給量が限定され、エンジンの安定性に影響が出ることがあります。しかし、VALVEMATICシステムでは、バルブリフト量と開時期を微調整することで、アイドリング時の空気供給量を最適化し、安定したアイドリングを実現します。
  3. 応答性の向上: VALVEMATICシステムは、バルブリフト量と開時期を電子制御で素早く変更できるため、エンジンの応答性が向上します。これにより、アクセル操作に対するエンジンの反応が向上し、運転者の意図に忠実な走行性能を実現します。
  4. 低負荷時の燃焼安定化: VALVEMATICシステムは、低負荷時にもバルブリフト量と開時期を最適化することで、燃焼を安定化させ、エンジンの効率を向上させます。

ホンダのVTEC

VTECの概要

ホンダのVTEC(Variable Valve Timing and Lift Electronic Control)は、エンジンのバルブタイミングとリフト(開口量)を可変させることで、燃費性能、出力性能、および排出ガス性能の向上を目指す技術です。VTECは1980年代にホンダが開発し、その後多くのホンダ車に搭載されています。

VTECシステムの主な構成要素は以下の通りです。

  1. 可変バルブタイミング機構: エンジンの回転速度や負荷状況に応じて、吸気および排気バルブの開閉タイミングを制御する機構です。バルブタイミングの変更は、カムシャフト上のカムプロファイルやロッカーアームの動きを変更することで行われます。
  2. 可変バルブリフト機構: エンジンの運転条件に応じて、バルブの開口量(リフト)を変更する機構です。リフトの変更は、ロッカーアームやカムフォロワーの動きを調節することで行われます。

VTECのメリット

VTECシステムは、エンジンの運転状況に応じてバルブタイミングとリフトを最適化することで、以下のメリットを得ることができます。

  1. 低回転域でのトルク向上: 低速時にはバルブタイミングとリフトを小さくして、吸気・排気効率を向上させ、トルクを向上させます。
  2. 高回転域での出力向上: 高速時にはバルブタイミングとリフトを大きくして、空気の流入量を増やし、出力を向上させます。
  3. 燃費性能の向上: エンジンの負荷や回転数に応じてバルブタイミングとリフトを最適化することで、燃料消費量を抑え、燃費性能を向上させます。
  4. 排出ガス性能の向上: バルブタイミングとリフトの最適化により、燃焼効率が向上し、排出ガスのクリーン化が図られます。

日産のVVEL

日産の「VVEL」はバルブリフトとバルブタイミングを連続的に変化させることができる機能を持っています。

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可変バルブ機構の種類

まず、可変バルブ機構には可変バルブタイミング(VVT)と可変バルブリフト(VVL)の2種類があります。

以下で、それぞれの特徴について解説をします。詳細は後述しますが、可変バルブ機構を使うことによって、ポンピングロスや排気吹き出し損失などのエネルギーロスを低減することができるようになります。

可変バルブタイミング(VVT)はバルブプロフィールを平行移動

VVTは、バルブ開閉タイミングを可変にする機構です。

もう少し厳密な解説をすると、開閉タイミングの位相を可変にする(リフトカーブを平行移動する)ということです。つまり、バルブをオープンするタイミングを早める(進角)と、クローズするタイミングも早まるということです。

反対に、オープンタイミングを遅らせる(遅角)と、クローズタイミングも遅れます。つまり、VVTはバルブプロフィールを平行移動しているだけということです。バルブプロフィール自体は変化しません。

VTTは吸気バルブと排気バルブにそれぞれに実装されるため、「吸気VVT」や「排気VVT」という呼び方をすることが多いです。VVTはコストアップに直結するので、吸気と排気のどちらか一方だけに実装されるケースも少なくありません。

可変バルブリフト(VVL)はバルブプロフィールを変化させる

VVLは、バルブのリフトカーブを可変にする機構です。

リフトカーブを変更できるため、バルブのオープンタイミングを固定した状態でクローズタイミングを可変にすることができます。したがって、VVLはVVTと対照的に、バルブプロフィールを変化させています

VVTとVVLの両方を組み合わせたシステムを存在します。VVT+VVLにすることで、バルブのオープンタイミングとクローズタイミングをそれぞれ独立させて制御することができるようになります。

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可変バルブ機構のメリット

充填効率(シリンダー内の空気量)を最大化できる

充填効率(シリンダー内の空気量)は吸気バルブのクローズタイミングが非常に重要になります。

充填効率はエンジン回転数と相関が強く、エンジン回転数が上がるにつれて吸気バルブクローズタイミングを遅らせる必要があります。

これは、「吸気慣性効果」の影響です。エンジン回転数が高いときは空気の流速も早くなり(慣性効果が高くなり)、遅閉じにしても空気をシリンダーに詰め込むことができるからです。

逆に、エンジン回転数が低いときは空気の流速が遅いため、遅閉じにしてしまうとせっかくシリンダーに導入した空気が逆流してシリンダーから吸気ポートを通って抜けていってしまうのです。

したがって、回転数の上昇に合わせて吸気バルブタイミングを遅角させることによって、常に充填効率を最大化させることができるのです。

ポンピングロス(ポンプ損失)を低減できる

可変バルブ機構は、ポンピングロス(ポンプ損失)の低減にも効果があります。

ポンピングロスを低減するために重要なことは、吸気行程中と排気行程中のバルブ開口面積を大きく開けることです。そのためには、リフト量の高いリフトカーブにすることが重要になります。

ホンダのVTECでは、バルブリフトの低い「ローカム」とバルブリフトの高い「ハイカム」の2種類のバルブプロフィールを用意しています。高負荷領域はハイカムを使うことによって、吸排気行程中のポンピングロスを低減させる工夫をしています。

排気吹き出し損失を低減できる

排気吹き出し損失をも低減することができます。

排気吹き出し損失とは、膨張行程中に排気バルブを開ける(ブローダウン)とシリンダー内の高圧・高温のエネルギーの高いガスが排気ポートに抜けてしまうことによる損失です。

排気吹き出し損失はエンジン回転数の上昇に伴って、排気バルブの開弁タイミングを進角すると最適化できます。それはエンジン回転数によって排気行程の時間が変化するためです。

エンジン回転数が低いときは、ピストンスピードがゆっくりなので排気行程の時間は長く取ることができます。そのため、排気バルブの開弁タイミングが遅くても十分排気できるのです。反対に、タイミングが早すぎるとガスが抜けすぎてしまい排気吹き出し損失が増大します。

しかし、高回転のときは時間が足りません。そこで、高回転域では早めに排気バルブを開けてないとガスが排気する前に、次の吸気行程が始まってしまうのです。

高負荷領域の掃気がしやすくなる

高負荷領域では、シリンダー内の掃気が重要になります。掃気とは、燃焼が終わった高温の既燃ガスをシリンダー内から吐き出す(掃除する)ことを指します。

では、なぜ既燃ガスがシリンダー内に残留するとよくないのでしょうか?その理由は、ノッキングが起こりやすくなるからです。既燃ガスが残留すると次のサイクルの筒内温度が高くなり、圧縮行程でノッキングが起こりやすくなってしまいます。

掃気を促すためには、吸気バルブと排気バルブをオーバーラップさせることが必要です。吸気バルブと排気バルブの両弁を開けることによって、吸気ポート→シリンダー→排気ポートと空気の流れができて掃気がしやすくなります。

オーバーラップは、吸気バルブのクローズタイミングを遅角、排気バルブのオープンタイミングを進角すると実現します。

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